研究課題/領域番号 |
26380817
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研究機関 | 関西福祉大学 |
研究代表者 |
米倉 裕希子 関西福祉大学, 教育学部, 准教授 (80412112)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 知的障害 / スティグマ / スティグマティゼーション / 態度 / 福祉従事者 / 尺度開発 |
研究実績の概要 |
スティグマは,対象となる人へのネガティブな認識や態度を意味し,一般市民が押し付ける態度をスティグマティゼーションという.海外では知的障害者本人のスティグマ経験と自尊感情や社会的比較,一般市民の障害認識とスティグマとの関連,知的障害者との間接的な接触が態度改善に影響すること等が報告されている.国内では十分研究されていないため,知的障害者本人のスティグマ及び接触時間の長い福祉従事者のスティグマティゼーションに関する調査研究を行った. (1)知的障害者本人のスティグマ経験 スティグマ経験の尺度の日本語版の開発及び関連要因を分析した.研究協力者は知的障害者本人101名である.その結果,スティグマ尺度日本版は信頼性と妥当性があった.先行研究よりもスティグマ経験は少なく,自尊感情,性別や年齢との関連はなかった.特別支援学校卒業者の方がスティグマ経験は少なかった.経験が少ない理由には社会との接触経験が少ないことが挙げられる. (2)福祉従事者におけるスティグマティゼーション 知的障害者施設の職員を対象に横断研究を行った.スティグマティゼーションの評価に,Jefferson scale of empathy(JSE)及び精神障害者への肯定的態度評価尺度を知的障害者に修正し用いた.分析対象者は1112名で,JSEの平均得点は113.7±13.4(n=315),肯定的態度では52.6±7.8(n=1015)だった.各尺度とも,年齢,性別,経験年数,障害家族の有無において得点差はなく,専門教育歴,資格,研修,統合教育では有の方が高かった.専門教育修了及び有資格者の平均年齢は低い一方で,経験年数は長いことから,転職あるいは再就職の高年齢層が浮かびあがってくる.専門領域外からの転職者に対してどのように研修,教育を行っていくかが今後の課題となる.そのためにもさらに詳しく分析を行う必要がある.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
平成27年度は,(1)平成26年度に予定していた計画の完遂,(2)平成27年度実施計画の実施を予定していた。 (1)平成26年度に完遂していない計画として,1)日本版尺度の作成,2)尺度を用いた実態調査があった.1)については,原著者の許可を得,信頼性と妥当性を評価するため知的障害者本人100名の対面調査を行い,データ分析によって信頼性と妥当性が検証できた.2)についても,知的障害者のスティグマ経験の調査及び知的障害者施設108施設に従事する職員2744名を対象とした大規模な横断研究を実施した.よって(1)については完遂できた. 一方で,(2)平成27年度実施計画については,心理教育を応用したスティグマティゼーション是正プログラムの開発として,福祉従事者を対象に介入プログラムを実施しその効果測定を行う予定だったが未完遂である.実施できていない理由は,福祉従事者を対象とした横断研究が,(1)協力団体の担当者が変更したため実施時期が遅れたこと,(2)協力団体との協議の結果予定より大規模調査になり,手続き等に時間がかかったこと,(3)大規模調査を実施したため,予算不足になったことが挙げられる.予算不足となった原因としては,調査協力可能な施設が想定より多かったこと,また倫理審査委員会の結果,倫理的配慮から職員のアンケート回収方法を個別の郵送による回収としたため,郵送費等が想定よりかかってしまったことにある.また,質問紙の作成を外部委託としたため,印刷代等が余分にかかってしまった.今後,福祉従事者の調査に協力いただいた団体を通して,介入対象者等の募集及び実施を早期に検討するとともに,予算内での実現可能な研究計画に修正する必要がある.
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今後の研究の推進方策 |
今後の推進方策については,(1)平成27年度に予定していた計画の実施,(2)平成28年度の研究計画の変更,(3)本研究に関わるエフォートの拡大についてである. (1)については,心理教育を応用したスティグマティゼーション是正プログラムの開発として,福祉従事者を対象に介入プログラムを実施しその効果測定を行う予定である.横断研究の分析結果から介入対象者を限定し,時間とコストのかかる無作為抽出による無作為化比較対照試験ではなく,施設での比較をおこなう対照試験とする.今後,福祉従事者の調査に協力いただいた団体を通して,横断調査の報告とともに合わせて介入施設等の募集及び実施を前期中に検討,調整し,後期にプログラムの実施をする. (2)については,介入プログラムをもとに,誰でもどこでも実践できるプログラムを計画し、マニュアル、映像、冊子などのツールの作成、研修会などを行い、その普及方法の検討を行う予定であったが,時間,規模,予算共に実現可能な研究計画に修正し,介入プログラムの普及のためのプログラムの再検討とする.(1)の実施に合わせて,介入施設のヒアリングによってプログラムの再検討を行う. (3)研究計画を遂行する上で最も深刻な課題である本研究に関わるエフォートの拡大について,昨年度は対応策として,アルバイト雇用,外部委託,Web等を活用した効率のよりデータ収集などを挙げていた.アルバイト雇用及び質問紙の印刷や封入作業を外部委託することによってエフォートの改善が見られたため,引き続きアルバイト雇用や外部委託を活用していく.しかし,データ入力の外部委託や Web等の活用については,高額であったり,対象者になじまなかったりしたため,改善の方策とはならなかった.横断研究を実施した対象施設を活用することで,対象の募集等は既存のデータを使用することができ,プログラム実施の調整に関する効率化を図る.
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次年度使用額が生じた理由 |
福祉従事者を対象とした横断研究が,協力団体の担当者が変更したため実施時期が遅れたこと,また当初より大規模調査になり手続き等に時間がかかったため,データ入力に時間を要した.そのため,データ入力については年度内で実施できず,データ入力に関するアルバイト料が執行できなかった.一方で,平成27年度の計画を実施できなかったため実質的には予算不足であり,平成28年度は詳細な使用計画を作成し実施する必要がある.予算不足になった原因としては,調査協力可能な施設が想定より多かったこと,倫理的配慮から職員のアンケート回収方法を個別の郵送による回収に変更したこと,質問紙の作成を外部委託としたため,郵送費や印刷代等が余分にかかってしまった.
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次年度使用額の使用計画 |
使用計画については,(1)介入プログラムの開発,(2)介入プログラムの実施と効果測定,(3)成果発表,(4)連携研究者との打ち合わせに係る使用を予定している. (1)プログラムの開発には,プログラム開発のための文献複写,図書費,出張旅費の使用を予定している.(2)介入研究では,実践を行うための出張旅費,会場費,プログラム実施及びデータ入力の補助アルバイトに使用する.(3)は,論文投稿のため,投稿に係る経費として文献複写,図書費,また成果発表及び知見の収集のための経費として,学会年会費,参加費,出張旅費の使用,また平成27年度の調査研究の各施設への報告のための印刷費,郵送費等に使用する.(4)は,円滑に調査研究を行うとともに結果分析のため,連携研究者との打ち合わせを行う.そのための出張旅費にも使用する.
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