本研究は,Fredrickson(2001)の拡張・形成理論(broaden-and-build theory)を「感謝」に限定的に適用して「感謝のポジティブ効果に関する拡張・形成2過程モデル」を仮定し,「拡張ルート」と「形成ルート」それぞれについて,次の3点に重点を置いて検討を進めた。 1つは,「感謝感情」を実験的に喚起させる複数の手法を試みたことである。「感謝体験を想起・筆記させる」(第1研究:状態感謝と心理的負債の生起に影響を及ぼす要因の検討,第4研究:感情の追体験による感謝感情と負債感情の喚起が第三者への向社会的行動に及ぼす影響の検討,第7研究:小学生を対象とした感謝経験の筆記によるポジティブ・ネガティブ感情の変化,第10研究:感謝感情の「ありがとう」と「すみません」が友人関係の維持に与える影響),「感謝の手紙を書く」(第3研究:「感謝の手紙」による感謝感情と負債感情の喚起が感情を経験する個人に及ぼす影響の検討),「感謝日記を書く」(第6研究:感謝生起状況に対する〝当然さ評価〟低減の実験的試み)などを試みた。 2つ目は,調査的研究(第1研究,第2研究:感謝感情と負債感情の共生起過程モデルの検討,第5研究:状況別の感謝特性と主観的幸福感との関連,第8研究:小中学生における感謝感情の規定因ならびにその後の対人行動に及ぼす影響,第10研究)だけでなく,実験的研究を行い(第3研究,第4研究),さらに介入研究も行い(第6研究,第7研究,第9研究:感謝を数えることが主観的ウェルビーイングに及ぼす効果についての介入実験),統制群との比較を通じて,感謝の効果を因果的に検証した。 3つ目は,研究対象者を大学生に限定せずに,小学生や中学生(第7研究,第8研究),一般成人(第5研究)も対象とした。
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