研究課題
当該の文化において歴史的に培われてきた意味体系や信念、価値、社会規範は、それらが内包された慣習の日常的な実践や文化的産物への接触を通じ、人々に対してそれらに応じた心の性質を招来する。そして個々人は、その意味体系や信念、価値、社会規範を再生産していく。本研究はそれらのプロセスが繰り返される結果として、文化的産物に内包されている価値がどのように維持・変容されるのかを検討する。本年度は、文化的価値に関してニュートラルな塗り絵を出発点として、それを人から人へ再生していったとき、最終的にどのような特徴をもった塗り絵になるのかを調べる実験を日本(神戸大学)およびアメリカ(ウィスコンシン大学)で行った。具体的には、最初の参加者に数秒間ニュートラルな塗り絵を提示し、妨害課題後にその塗り絵を再生してもらい、そこで再生された塗り絵を次の参加者に見せ同様の手順で再生してもらうというのを3人1組で行った。これに加えて、アジア系カナダ人を対象に、元々のアジア文化への同化度および現在のカナダ文化への同化度の程度が文化的産物の産出に影響を与える可能性についても、トロント大学でデータ収集を行った。そしてここで収集した塗り絵に対して、神戸大学の日本人学生が好み、独自性、協調性の観点から評定した。先行研究では、アジア文化への同化度が高いアジア系カナダ人ほど日本人の塗り絵を好み、一方カナダ文化への同化度が高いアジア系カナダ人ほどアメリカ人の塗り絵を好む傾向が見られたが、塗り絵の産出に関しては文化化の影響があまり見られなかった。ただしカナダに居住している期間による影響が多少見られたため、今後この点を考慮して再検討していく必要がある。
2: おおむね順調に進展している
昨年度、塗り絵の伝達に関してアメリカにおけるデータ収集ができず、その分遅れが生じたが、今年度はそれをカバーし、日米比較を行うことができた。また予定通り、文化化と文化的産物の産出に関してアジア系カナダ人を対象としたデータを収集することができた。しかしながら文化化に関するマレーシアでのデータ収集まで至らなかったため、2016年度中にそれを迅速に進めたい。そのような点はあるものの、概ね計画通り進んでいると言える。
2016年度中に、マレーシアにおいて欧米文化による影響をうけて育ってきている中国人を対象に、文化プライミングが文化的産物への好みに影響を与えるのかを検討する実験を行う。それと同時並行に、2015年度に得られたアジア系カナダ人の文化化と文化的産物の産出のパターンを踏まえ、文化化と文化的産物の変容というところまで実験デザインを拡張できるか早急に検討し、データ収集に努める。そして得られた知見に関しては順次学会発表し、論文としてまとめていく。
マレーシアで実施予定であった文化プライミングと文化的産物の好みに関する研究が実施できなかったため。
マレーシアで実施予定のその研究を実施することでこの次年度使用額を消化する。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件) 図書 (2件) 備考 (1件)
Culture and Brain.
巻: 4 ページ: 印刷中
10.1007/s40167-016-0034-7
Journal of Cross-Cultural Psychology
巻: 47 ページ: 376-384
10.1177/0022022115621969
Journal of Research in Personality
巻: 55 ページ: 84-90
10.1016/j.jrp.2015.02.001
https://sites.google.com/site/kobecpl/home