研究実績の概要 |
以下の2点を検討した. (1)因果構造の検討 ある事象の確率を考慮する際,事象の生起メカニズムを表す因果構造が重要であることは統計的因果推論の分野で広く認識されているものであり,道徳的判断の文脈でもその重要性が明らかにされている(Waldmann & Dieterich, 2007).このような因果構造の影響は,意図性判断でもあり得るものであるがこれまでの研究では殆ど検討されていない.そこで本研究では行為の主体と客体があるとして,主体自身の事情を目的として,結果的に客体に何かが生じる場合と,客体に対する働きかけを目的とした行為が,主体にも何かの結果をもたらす場合の双方を設定し,比較した.その結果,因果構造の違いが意図性判断に影響を与えることを示した.この研究成果は中村(2015)で公刊している.
(2)第2言語の影響 近年,道徳的判断が使用言語の影響を受けることが示されている.Costa, Foucart, Hayakawa, et al. (2014)は英語を母国語とする実験参加者と英語以外の言語を母国語とする実験参加者の双方に,トロッコのジレンマと歩道橋のジレンマの2種類の道徳のジレンマを,母国語か第二言語のどちらかで提示し回答することを求め,第二言語でジレンマを呈示された場合の方が,ジレンマ間の反応の相違が減少し,かつ合理的回答を行う比率が高まることを明らかにした.このような第2言語の道徳的判断に対する影響を日本語話者に対して日本語・英語のいずれかで道徳的判断課題を行わせ,言語の違いを被験者内要因で検討した.その結果,日本語話者についても先行研究同様の効果を確認した.以上の成果はNakamura (2016)で発表予定である.
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