これまでの文化心理学において、自己認識の文化的バイアスが検討されてきた。そこではアメリカ人は正の自己関連情報に大きなウエイトをおくため自己高揚的傾向を示し、日本人は負の自己関連情報にウエイトをおくため自己批判的傾向を示すことが報告されてきた。そこで、本研究では、平行して収集されているアメリカのデータと同じ方法で事象関連電位を用いて、自他関連情報評価を比較し、情報の感情価によって、その処理の性質が情報処理の初期から系統的に異なるか、さらにこのバイアスを文化と遺伝子多型の交互作用によって予測できるかを検討することを目的とした。具体的には、ポジティブとネガティブな単語にタイムロックされた事象関連電位を測定し、初期の事象関連電位のコンポーネントには文化差がみられないが、それ以降のコンポーネント、特にN400で顕著な文化差という仮説を検証し、また可塑性遺伝子の一つとして近年注目されているのがDRD4との関連を検討することとした。その結果、自己条件、他者条件にかかわらず、日本人は負の情報に対し、N2(重要な刺激への注意の指標)へ注意が向いていたが、他者条件の結果は支持されなかったが、これは、自己他者にかかわらず、失敗状況への自尊感情の変化がより大きくなるというKitayamaet al(1997)と一致している。日本人の場合、自己他者にかかわらず、負の情報に対し、より注意が向くとなっていた。しかしながら、この結果はN2であるか否か、その解釈に関して、検討した。その上で、論文を投稿したところ、追加データが必要となり、被験者を加えてデータの再分析を行った。
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