研究課題/領域番号 |
26380856
|
研究機関 | 立正大学 |
研究代表者 |
上瀬 由美子 立正大学, 公私立大学の部局等, 教授 (20256473)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | ステレオタイプ / 偏見 / 可視化 / 社会システム / 社会的包摂 / スティグマ |
研究実績の概要 |
本研究は、ステレオタイプ・偏見低減研究において効果的接触の成立条件とされる「社会的・制度的支持」の一形態として、「可視化した社会システム」を位置づけ、被スティグマ化された人々の社会的包摂をめざす社会的アプローチとしての有効性を検証することを目的としている。また、この目的に沿い、可視化した社会システムの具体的事例として、「官民協働刑務所」の開設に焦点をあて、システム導入が地域住民の刑務所や出所者に対する偏見をどのように変容させたのか、アクション・リサーチを行うことを計画していた。 平成26年度は、上記計画の主軸である、アクションリサーチを実施した。具体的には、栃木県さくら市に開設されている官民協働刑務所「喜連川社会復帰促進センター」を取り上げ、センター開設によって刑務所に対する態度が変化したか、近隣住民に意識調査を行なった。調査実施にあたっては、予め一部の近隣住民に面接を実施し、当地の独自性を明らかにし、意識調査の項目作成に反映させた。 意識調査を実施したのは、喜連川社会復帰促進センターのあるさくら市の、葛城・喜連川・鷲宿・小入・早乙女・桜ヶ丘・フィオーレ・梨木地区である。さくら市の行政区長を通じて、対象地域全ての世帯に、調査票(世帯主用と配偶者用)および返送用封筒の入った封筒を配布した (配偶者がいない場合は白票を返送するよう求めた)。調査実施期間は2015年2月~3月である。配布数は 2485世帯で、返送された回収票の数は白票も含め1692票である。回収率(分母は配布票(配布世帯数×2)から白票をひいた数、分子は回収票数から白票をひいた数)は35.2%であった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
「研究の目的」は、可視化した社会システムの影響を明らかにすることであり、システム可視化の具体例として、官民協働刑務所開設に焦点を当てている。研究計画では平成26年度に、官民協働刑務所近隣住民への面接調査と、質問紙調査を実施するとしていた。またデータ入力については平成27年度に行なうものと計画していた。 実際には、平成26年度3月までに調査実施およびデータ入力までが完了となったため、研究は当初の計画以上に進展したと判断した。 なお、交付申請書提出時には、調査実施地域を兵庫県の「播磨社会復帰促進センター」近隣として計画していたが、当地の事情から実施ができなくなったため、調査地域は栃木県の「喜連川社会復帰促進センター」近隣で実施した。両センターは設置の経緯や位置づけはほぼ同一であるため、社会システム可視化の影響を分析するという研究目的達成に地域変更の影響はないと考える。
|
今後の研究の推進方策 |
平成26年度は、喜連川社会復帰促進センターのあるさくら市の施設近隣住民に、施設に対する意識調査を実施した。2015年2月~3月に、対象地域全ての世帯に、調査票(世帯主用と配偶者用)および返送用封筒の入った封筒を配布した。配布数は 2485世帯で、返送された回収票の数は白票も含め1692票である。回収率(分母は配布票(配布世帯数×2)から白票をひいた数、分子は回収票数から白票をひいた数)は35.2%である。平成27年度は、この1692票について、回答者属性(居住地域・性別・年齢)により施設に対する態度(開設前後の抵抗感やリスク認知)に違いがあるかを分析するとともに、施設への接触や獲得した知識等が態度にどのような過程で影響を及ぼしているのかを分析する。それをふまえて、刑務所の官民協働化によって、どの程度矯正システムが地域住民に可視化されたのか、また可視化がシステムに対する態度にどのような影響を与えるのかを詳細に分析し、社会システムの可視化の影響過程についてモデル化を試みる。 加えて、モデル精緻化のため、提出された研究計画通り、「研究3」として大学生を対象とした質問紙実験を実施する。ここでも、矯正システムを事例とし、現在の矯正プロセスに関する情報提示の内容を変化させて、施設に対する態度や出所者受け入れに関する態度に与える影響を検討する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究計画では、平成26年度は住民への面接と意識調査を実施し、予算は調査準備と実査・回収費用にあて、平成27年度は予算は前年度に回収された調査票のデータ入力および分析とモデル精緻化のための実験研究にあてるものとしていた。しかしながら研究計画が予定よりも早く進み調査が順調に完了したため、平成27年度予算の一部を、26年度に前倒し請求した。ただし、平成26年度はデータ入力をするまでで、モデル精緻化のための実験実施にまでは至らなかった。また平成26年度に実施した意識調査については、実施後に対象地域の方へ結果報告会を実施してほしいとの要望が出された。このため平成27年度はモデル精緻化のための住民調査データの詳細分析に加え実験研究を研究計画通りに実施し、それに加えて住民への結果報告会のために予算を使用することとする。
|
次年度使用額の使用計画 |
平成27年度については、研究目的にある通り、モデル精緻化のための研究を進める。第一に、平成26年次に実施した喜連川社会復帰促進センター近隣住民に対する意識調査について収集したデータを集計・分析し、可視化プロセスのモデル化を試みるとともに、結果の概要について近隣住民に報告会を実施する。その際の報告書印刷と報告会実施のための費用を平成27年度予算より使用する。また、研究計画に沿い、モデル精緻化のために大学生を対象とした質問紙実験を実施する。ここでも、矯正システムを事例とし、現在の矯正プロセスに関する情報提示の内容を変化させる形で実験操作を行い、施設に対する態度や出所者受け入れに関する態度に与える影響を検討する。
|