本研究は「官民協働刑務所(社会復帰促進センター) 」の開設事例に注目した。開設に伴って生じた矯正に関する社会システムの可視化を、接触理論における「社会的・制度的支持」のひとつとして位置付け、刑務所や受刑者・出所者に対する態度(ステレオタイプ・偏見)の変容との関連を以下の3つの研究を通して多面的に分析した。 (1) 2014年9月に、栃木県さくら市にある「喜連川社会復帰促進センター」近隣住民5名にインタビューを行った。その結果、施設の特徴や、開設前後の抵抗感の変化が明らかになった。 (2) 2015年2月~3月に、「喜連川社会復帰促進センター」近隣住民を対象としたアンケート調査を実施し、1692票の回答を得た。分析の結果、施設の存在は回答者の9割以上に認知されていた。施設に対する抵抗感は、開設前の4割から、現在では1割程度へと低減していた。施設や (元)受刑者の社会的包摂を促進させるために、市の広報誌やメディアを通じた広報活動・情報発信を「住民に届く形」で行なうことの重要性が指摘された。 (3)2015年7月に都内大学の学生223人を対象とし、官民協働刑務所に関する情報を提供する実験を行ない、獲得知識と矯正システムに関する態度の関連を分析した。その結果、知識を獲得することがPFI刑務所出所者に対する心理的距離の近さに結びつくことが示された。また公正世界信念の高さと、出所者への受容的態度の関連が示唆された。 以上の3つの研究に基づき、被スティグマ化された人々の社会的包摂を促進させるためには、行政による関連活動の開始(社会的・制度的支持)と、その活動内容を一般の人々に広く伝えること(社会システムの可視化)が有効であること、さらにシステムの可視化が接触を増加させることを通して社会的包摂が促進するモデルが確認された。
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