様々な産業において分業ならびに外注化が進み,企業活動を1つの組織体で行うことが少なくなっている。効率化や従業員の負担軽減など種々の理由に基づく動きであると思われるが,安全性の向上を図るためには,それぞれの組織での取り組みのみならず,関連する組織全体での取り組みが求められる。そのため本研究では,組織間構造においてどのような安全上のリスクが存在するのか,また,組織間全体の安全文化を醸成するために重要な要素が何であるのかを検討することを目的としている。 平成29年度は,重層的構造を持つ産業組織の従業員を対象に面接調査もしくは質問紙調査を実施した。組織間構造における安全文化上のリスクとして,現場設備や作業に関する知識が現場作業を担当する協力会社に多く蓄積され,仕様書や手順書の作成が協力会社任せになり,発注者はますます現場知識の無いまま現場管理を行うようになること,法令やマネジメントシステムに則った書類管理が逆にそれ自体が目的化されリスク管理が不十分になること,安全に関する責任や権限,役割が曖昧になりがちであること,偽装請負を回避するために組織間で直接リスク情報交換や安全指示が忌避される傾向にあることなどが抽出された。また,発注‐請負関係の問題は,本社-事業場関係の問題と密接に関係することも確認された。 また,重層的産業組織の安全文化を評価する質問紙調査において,複雑な組織間構造を測定するための評価構造についても検討を行った。 さらに,これらの結果を基に,本研究全体の整理を実施した。
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