研究5年目である平成30年度は,秩序違反軽減の介入可能性評価と,公共喫煙所での秩序違反行為である,パーティション外での喫煙を抑制するための2回の介入実験を実施した。 秩序違反軽減の介入可能性評価では,一般市民(n=585)を対象に2波の社会調査を行なった。地区の秩序違反と個人の防犯対策への接触が被害リスク認知に与える交互作用が有意であり,パトロール等の防犯対策の実施に先立って,落書き消しや清掃等の秩序違反の痕跡を改善することの重要性が示された。 介入実験1では4喫煙所を介入群2,転移群1,対照群1に割り付けて,介入群では喫煙所のパーティションを拡幅し,うち1喫煙所では約1週間の工事閉鎖期間中の代替喫煙所を掲示案内して,転移群の喫煙所への移動を促した。介入対象の2喫煙所におけるはみだし喫煙は約7割減少し,その変化は対照群に比べて有意だった。また,代替喫煙所の存在は,喫煙所閉鎖期間中の喫煙を削減せず,その理由として,花壇や寄りかかることができる壁面の存在など,喫煙を助ける環境手がかりの存在が示唆された。 介入実験2では,1喫煙所において,禁止メッセージの掲示,喫煙所を示す環境手がかりとしての矢印路面表示の設置の2種類の介入をインターバルをおいて実施した。禁止メッセージの掲示は,喫煙所の適正利用率に有意な変化を及ぼさなかったのに対し,矢印路面表示は,介入前に比べ,喫煙所の適正利用率を約7ポイント引き上げた。 前年度までに実施した,街頭・路上での性犯罪被害の実態調査および危険行動の観察調査,地域の秩序違反についての住民調査および観察調査も含め,本研究では,地域での秩序違反や犯罪の問題では,街路・街区単位の環境手がかりが行為者(犯罪者)と潜在被害者双方に作用しているが,望ましい行動を引き起こす環境手がかりを用いたナッジ介入によって,その問題を軽減できる可能性が示された。
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