本年は2つの課題に取り組んだ。第一に,ウェアラブルセンサで測定された非言語行動と,児童の授業への参加の様子の関連性を調査し,測定の妥当性を検討することである。昨年度のシステム改善により測定精度の大幅な向上がもたらされ,児童の非言語行動(身体の振動リズム)を細かな時間単位で可視化できるようになった。本年は,調査協力校1校において調査を実施した。授業への参加の実態を表す指標として,児童らが発言した内容と発言主を授業後に想起させる手法(一柳,2009)を採用し,その正確さと授業中の身体振動との関連を検討した。関連の実際としては,例えばA児の発言を想起したB児の身体振動が,A児の発言時に他の時間帯と比べて相対的に顕著な変動を示すという形で観察できた。ただし,そうした関連はすべての児童において見られたわけではなかった。 第二の課題は,データ解釈の際に教師との連携を緊密化し,実践へのフィードバック回路を設計することである。昨年度からの協力校ではすでに教師とデータを検討する検討会を,測定後すぐに実施する体制が完成した。本年度から新たに協力が得られるようになった国立小学校1校でも調査が実施され,児童と教師の非言語行動の測定結果を授業との関連で検討する検討会を実施できた。いずれの検討会でも,児童の発言とともに非言語行動に着目することにより,教師は児童の姿に新たな解釈を付与することができ,将来の実践の変革につながる可能性が見出された。 残された課題としては,一般的な公立校でも利用可能な形へとシステムを改善する作業が挙げられる。ただ,ビジネス顕微鏡を開発した(株)日立製作所との連携の範囲内でできることには限界があり,研究期間内に社会実装に耐えうるシステムを完成するに至らなかった。同社との連携は継続するため,今後は体育などの教科に限るなどして授業実践改善ツールの開発を進めていく予定である。
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