最終年度は,カナダと日本において再学習パラダイム(savings-in-relearning paradigm)によって得られた,自発的特性推論と自発的状況推論に関するデータを分析した。特性と状況のいずれも暗示する行動文もしくはニュートラルな統制文と顔写真を提示し,その後顔写真と特性語もしくは状況語のペアを記憶してもらった。最後に顔写真のみを提示し,ペアになっていた単語を思い出してもらった。そして,特性・状況暗示文を提示した時点で,自発的特性推論・自発的状況推論が生起していれば,その後の顔写真と単語の記憶は再学習となり,より思い出しやすくなると考えられる。結果から,カナダ人は自発的特性推論と自発的状況推論を同程度行うが,日本人は自発的特性推論よりも自発的状況推論を行いやすいことを示した。 研究期間全体においては,まず自発的特性推論について,世界で初めて異なる文化の参加者を直接的に比較した実証研究を行った。そして,日本人とアメリカ人にいずれにおいても自発的特性推論を生起するが,アメリカ人の方がより,自発的特性推論を行いやすく,またその過程が自動的であることを示した。成果は国際誌に掲載された。さらには,自発的特性推論と自発的状況推論の同時生起に関して,世界で初めて文化差を明らかにした。この結果についても,論文にまとめ国際誌に投稿し採択された。 これらの結果を総合して,思考スタイル(analytic vs.holistic)や帰属スタイル(individualistic/indipendent vs. collectivistic/interdependent)といった従来の文化心理学における理論を用いて分析し,自発的推論の普遍的特徴と文化固有の特徴についての比較文化モデルを構築した。
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