研究課題/領域番号 |
26380869
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
岩田 美保 千葉大学, 教育学部, 教授 (00334160)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 感情 / 会話 / 仲間遊び / 葛藤 / コミュニケーション / 感情調整 / ポジティブ感情 / ネガティブ感情 |
研究実績の概要 |
本研究の主目的は、『幼児・児童期の他者理解』について社会的文脈での感情会話・コミュニケーションに着目し、発達的な検討を行うことである。今年度は特に以下の点について検討を行った。 1.幼児の感情会話の検討:幼稚園での横断的・縦断的観察を続行するとともに、幼児のポジティブ・ネガティブ感情言及を伴うやりとりの様相をより深く捉えるために、本年度はエピソードの質的な検討に焦点をあて、分析及び学会報告を行った。3歳児間の仲間遊びにおけるポジティブ感情言及を伴うやりとりの検討では、ポジティブ感情言及が仲間遊びの発展に重要な役割を果たしている可能性が窺えた(日本保育学会大会、2015)。また、一人の子どもの葛藤状況に対する4歳女児間のやりとりの検討では、女児たちがふりと現実の世界を行き来する中で、多様な感情言及を伴いながら、仲間のネガティブ感情の調整にかかわる洗練されたやりとりを行っている様相が窺えた(日本教育心理学会総会、2015)。今後は、これらの結果もふまえながら、新たなデータの検討を進めていく予定である。 2.児童の感情会話の検討:前年度に続き、葛藤を伴う話し合い場面での児童の意見表明やそれを含むやりとりに着目した。今年度は、低学年(1,2年)や高学年(5年)学級の複数回の予備観察をふまえ、5年生の1学級を新たな対象とし本観察を行った。これらのデータを学級担任とも共有し、話し合いに関わる状況設定や、これまでの背景等について細かい聞き取りも行った。現在、これまでのデータを統合しながら分析を行っており、まもなくその一部を報告できる段階となっている。 3.家族間の感情会話の検討: 本年度は3世代家族における感情会話について焦点をあて、特に、家族間の会話における葛藤(けんか)緩和やポジティブなやりとりに関わる祖父母の発言の役割等に着目し、理論的な整理も進めながら、データの予備分析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、昨年度に引き続き、園や学校で観察を施行し、新たなデータ収集を行った。現段階までに得られた観察データについては、プロトコル化を完了させ、理論的な検討も行いながらそれぞれの基礎分析を進めることができた。特に幼児の感情会話の検討についてはその成果の一部を、2015年5月、8月の学会発表(日本保育学会第68回大会、日本教育心理学会第57回総会)等を通じて発信することができた。そこでの討議や意見交換を通じて今後の分析のための手がかりとなる有益な助言等を得ることができ、それらをふまえた新たな分析が進んできている状況である。 また、学校や家庭でのデータについても理論的な枠組みの整理や予備分析が進んできており、研究成果の一部をまもなく報告できる段階となっている。学校(学級)のデータの予備分析においては、やりとりの背景についての教師等への聞き取りなどもふまえて、今後の分析に関わる視点を整理することができた。また、そうしたやりとりに影響を及ぼすであろう学級での友人関係(特に性別に基づくグループ)について回顧法による予備研究にも着手した(千葉大学教育学部紀要、2016)。 さらに、新たなデータ収集についても小学校、家庭とも調整が進んでいる。小学校については、これまでの小学校に加え、現時点で新たな近隣の小学校から観察の快諾が得られており、今後の観察内容について打ち合わせを行っている状況である。また、園については現在継続している観察を同園にて今後も行う予定である。 こうしたことから、当初の研究目的に沿った研究の進行は概ね順調になされているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、これまでの予備分析結果をふまえ、研究成果を日本発達心理学会や日本教育心理学会等において逐次報告し、意見交換を積極的に行っていくとともに、論文報告を行っていく。近く行われる日本発達心理学会(2016年4~5月)、日本保育学会(2016年5月)、ICP2016(2016年7月)、では、研究発表やシンポジウム(話題提供者)での討議を予定しており、そこでの意見交換もふまえ、家庭・園・学校場面での感情会話に関する研究をより深め、幼児・学童期の社会的文脈における感情会話やコミュニケーションをふまえた他者理解のプロセスについて明らかにしていきたいと考えている。 また、これまでに継続して行っている幼稚園や小学校等での観察について、新たな視点も加えながら続行していくとともに、よりデータの幅を広げるために、新たな観察先についても調整を進めていく。さらに、分析を進める中で、足りないデータについてはその補完について考慮しながら今後の検討を進めていくつもりである。
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