本研究では,子どもの思考の多様性の様相を記述型調査等により明らかにするとともに,子どもの思考の多様性を生かす教科学習を複数教科で組織し,それが各児童・生徒の概念的理解の深化に及ぼす効果とプロセスを心理学的方法により明らかにする。平成28年度は以下の研究を実施した。 1.思考の多様性を生かす算数・数学授業の組織と評価:図形領域を中心に,多様な既有知識を活性化する非定型課題の設定と個別―クラス全体の協同―個別の探究過程を特徴とする授業(協同的探究学習)を小中学校で組織し,授業時の発話・ワークシートをもとに児童・生徒の思考プロセスを分析した。複数学年・単元で検討を行った結果,日常的事象や日常語彙に関連づけると同時に単元の本質に迫る非定型課題や,図形の性質を任意に関連づけて探究する非定型課題の設定により,思考プロセスに関する多様な思考が引き出され,さらに協同探究場面で多様な思考が関連づけられることにより,数学的概念に関する理解が深まることが推察された。 2.思考の多様性を生かす国語授業の組織と評価:説明文教材や文学教材に関して非定型課題と先述の協同的探究学習に特徴づけられる授業を高校で組織し,授業時の発話・ワークシートをもとに生徒の思考を分析した。その結果,説明文の構成を図示する非定型課題や,俳句等の効果を解釈する非定型課題の設定により,生徒の多様な思考が引き出され,協同探究場面での関連づけを通じて,各生徒の思考が精緻化することが示唆された。 3.子どもの思考の多様性の様相についての記述型調査:高校生を対象に,数学・自然科学・社会科学領域に関する多様な知識を関連づけることを意図した非定型記述型課題を実施した。生徒の記述内容の分析の結果,各領域の概念的理解の水準と,各領域で一定水準にあることを前提とした領域間の統合的理解の水準を,生徒の記述内容に依拠して同定可能であることが明らかになった。
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