研究課題/領域番号 |
26380873
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研究機関 | 東京学芸大学 |
研究代表者 |
伊藤 友彦 東京学芸大学, 教育学部, 教授 (40159893)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 幼児 / 発話 / 流暢性 / 発達 / 吃音 / 統語 / 音韻 / 形態 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、幼児期における吃音の発生と消失を解明するための基礎的研究として、非吃音幼児における発話の非流暢性の発達的変化を、音韻発達と統語発達との相互作用という視点から検討し、発話における流暢性の発達モデルを提唱することである。 昨年の時点で、予定通りの人数の確保および実験課題の実施が難しいことが明らかになった。そこで、2年目以降は、研究方法を修正し、研究代表者の研究室が既に所有している幼児の自然発話の横断研究データと縦断研究データを中心に、音韻発達と統語発達との関係を検討することにした。
統語発達については、研究代表者である伊藤研究室のこれまでのデータ(横断研究と縦断研究)を用いて、日本語版のLARSP (Language Assessment, Remediation and Screening Procedure) を作成し、世界に発信した (Ito & Oi, 2016)。日本語版LARSPは、日本語の統語発達に関する世界基準の包括的な言語発達プロフィールである点、言語発達遅滞の評価と指導の方向性を示すものである点、世界のいろいろな言語のLARSPと比較可能である点で重要な意義をもつと思われる。また、日本語を母語とするSLI児の形態論的・統語的側面の発達の特徴を世界に発信した (Fukuda, Fukuda, & Ito, 2015)。
音韻発達については、迫野・伊藤 (2015) において、流暢さは読みでは音韻能力と関係していることを示した。また、迫野・上田・伊藤 (2015) では、幼児は、韻律面と分節面をそれぞれ正しく表象できるようになった後で両面を正確に結合できる可能性を指摘した。一方、松本・伊藤 (2015) において、幼児吃音を音韻面から検討した。この研究から、幼児期の吃音が統語のみならず、音韻とも密接に関係していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、非吃音幼児における発話の非流暢性の発達的変化を、音韻発達と統語発達との相互作用という視点から検討し、発話における流暢性の発達モデルを提唱することである。今年度からは研究の推進方策として、研究代表者の研究室が既に保有している幼児の自然発話の横断研究データと縦断研究データを分析対象の中心とした。
現在までの達成度を「(2)おおむね順調に進展している」とした理由の一つは、今年度は新たな方向でのデータ分析がほぼ予定通り行われたことによる。二つ目の理由は、Ito and Oi (2016) において、伊藤研究室のこれまでのデータ(横断研究と縦断研究)をふまえて、本研究において統語発達の指標とするLARSP (Language Assessment, Remediation and Screening Procedure) の日本語版を世界に発信できたことによる。三つ目の理由は、本研究室が最近行った幼児の統語発達の縦断研究の対象児の中に、一時期(約1年間)吃音症状を示した一例が存在し、偶然ではあるが、幼児期の吃音の発生から消失にいたる過程を統語発達・音韻発達との関係で詳細に観察する機会を得たことによる。吃音が発生する前の段階から消失に至るまでを直接、観察する機会を経験することは極めてまれである。この一例の詳細な分析により、幼児の統語・音韻発達と吃音症状との関係について貴重な知見が得られると期待される。この成果は次年度の国際学会で発表予定である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的は、幼児期における吃音の発生と消失を解明するための基礎的研究として、非吃音幼児における発話の非流暢性の発達的変化を、音韻発達と統語発達との相互作用という視点から検討し、発話における流暢性の発達モデルを提唱することであった。
これまでの検討の結果、1) LARSPの統語発達段階のⅡ~Ⅳ段階 (1歳6カ月~3歳0カ月)が統語面及び動詞の形態的側面の発達が著しい時期であること、2) この期間において、音韻面は二つの側面が異なった発達の様相を示すこと、すなわち、韻律的側面は著しく発達するが、分節的側面はそのような発達を示さないということが明らかになってきた。一方、「現在までの進捗状況」で述べたように、今回、偶然ではあるが、本研究室が最近行った幼児の統語発達の縦断研究の対象児の中に、約1年間にわたって吃音症状を示した一例が存在した。
最終年度では、まず、日本語の各統語発達段階(LARSPのⅡ段階~Ⅶ段階)と自然発話における非流暢性の特徴との関係を明らかにする。つぎに、国際学会(6月)において、統語発達の縦断研究の過程で、一時、吃音症状を示した一例について、吃音の発生、消失時期と形態・統語・音韻面の発達との関係を報告する。最後に、3年間の研究成果をまとめ、従来の知見(Bernstein Ratner, Wijnen, 伊藤の報告など)を踏まえて、非吃音児における発話の流暢性の発達モデルを提案する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、国際学会の発表が次年度に決定していたためである。本研究では研究発表の場として、International Clinical Phonetics and Linguistics Association (ICPLA) Conference に申し込みを行った。その発表申し込みの締め切りは2015年11月で、採択の連絡があったのは2016年2月であった。学会は2016年6月にカナダのHalifaxで開催される。次年度は、最終年度なので、この学会の他に、もう一つの国際学会に参加できる可能性もあることから、次年度の国際学会での発表のための旅費、参加費等のために次年度使用額を確保しておく必要が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
International Clinical Phonetics and Linguistics Association (ICPLA) Conference は、2016年6月15日~18日にCanadaのHalifaxで開催される。次年度使用額はこの学会を含め、国際学会での発表のために使用する予定である。
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