本研究の目的は、吃音の発生と消失を解明するための基礎的研究として非吃音児の発話における流暢性の発達モデルを提唱することであった。研究の過程で、1歳台からの縦断研究の対象児の一人に吃音が発生し、その吃音が約1年後に消失するという経過を観察する機会を偶然得た。今回の研究は吃音の発生と消失を解明するための基礎的研究として、まず非吃音児の流暢性の発達モデルを提案しようと行われたものであったが、偶然ではあるが、直接、吃音の発生と消失の過程を観察する機会を得たわけである。 この幼児1例の吃音の発生と消失過程の観察から、幼児期に発生する吃音も統語的側面が著しく発達する時期(1歳6カ月~3歳0カ月)に発生し、その後減少する過程を経ることが明らかになった。また、その発生、消失のメカニズムは、非吃音幼児の場合、Waijnen (1990)、伊藤 (1994) らが指摘しているように、文産出の発達過程における質的変化と密接に関係していることが示唆された。この一例について、2016年のカナダでの国際学会 (16th International clinical phonetics and linguinstics conference) で報告した。 本研究の目的の一つであった、非吃音児の流暢性の発達における統語的側面の発達と音韻的側面の発達との関係については、2歳0カ月から2歳3カ月までの非吃音幼児一例の縦断研究を行った。この研究の結果、統語的側面の発達が著しい2歳0カ月前後において、韻律面の発達は著しいが、分節的側面はそれと対応した発達を示さないことが示唆された。この結果は日本特殊教育学会第54回大会で発表した。 また、幼児期とは異なり、学齢期における吃音には音韻的側面が強く影響していることを示す論文を国際雑誌(Clinical Linguistics & Phonetics) に発表した。
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