研究実績の概要 |
1)ELマウスを用いて,遅延価値割引事態における衝動性へのatomoxetine(ATO)効果を検討した。ATOは主として前頭前野のNAトランスポーターを選択阻害して,注意や衝動の制御を高める。そこで3種の衝動性のうち,結果の衝動性を反映する遅延価値割引事態(Evenden,1999)におけるATO投与効果を検討した。その結果,DDY(対照系統)・ELともに,無投与時に相反のない事態で有利な選択を行い,相反条件において,DDYは2mg/kgにより反応数全体を減じ,10mg/kgで遅延大報酬反応のみ投与のない場合と同程度に回復させた。ELは,10mg/kgにより即時大報酬を減じた。ATOは十分な量でELマウスの衝動性を低減させると考えられ,実行の衝動性への同薬剤の効果と一致する(麦島, 2006 等)。 2)ADHDモデル動物である高血圧自然発症ラット(SHR)の音脈分凝知覚成立と,それへのmethylphenidate(MPH)の効果について,前注意過程を反映する大脳皮質ミスマッチ陰性電位様反応(MMN)を記録し検討した。音脈分凝は,音列が高頻度で高低音を行き来する場合に2音に分離して知覚される現象である(加納他,2008)。ヒトでは,分凝知覚する高頻度音列では逸脱音に対するMMNが見られるが,低頻度では見られない(Sussman et al. ,1998)。そこで,音脈分凝刺激下でのMMNを記録し,MPH投与効果を検討した。その結果,高頻度音列のときには,WKY(対照系統)のみで音脈分凝知覚が成立し,MMNも生じた。ラットもヒトと同様の知覚機構を有することと,音脈分凝知覚と前注意との関係が示唆された。MPH投与により,WKYはMMNを消失させ,SHRはMMNを惹起させるようになった。音脈分凝知覚下でのMMNにおけるMPHの逆説的効果が示された。同効果は臨床的知見と一致する。
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