注意欠如多動性障害(ADHD)を持つ児童の空間短期記憶 (継時呈示される空間位置とその順序の保持) 能力は,健常児よりも低いことが多くの先行研究により報告されている。本研究では,ADHD児の空間短期記憶能力において,これらの保持に問題があるのか,それともいずれか一方の保持に問題があるのかを言語能力および知識に依存しない空間スパン課題を用いて検討した。 空間スパン課題で求められるターゲットの位置および呈示順序の一時的な保持能力はADHD児の方が定型発達児よりも有意に低いという結果を平成27年度に実施した研究は明確に示した。一方、入力される情報の記銘は定型発達児と相違ないことも示した。平成28年度の研究では、平成27年度で示された2つの問題点をさらに検証した。1つ目は、ADHD児の厳密な選定であった。平成28年度では、ADHD児の選定においてWISC-IVとADHD-RSを採用し、厳密にグループ分けをおこなった。2つ目は、保持時間の長さであった。本年度では、遅延条件を10秒から3秒に変更した。この条件においてもADHD児の成績が有意に低い場合は、記憶痕跡の急速な衰退という彼らの保持能力自体の問題であると考えられる。実験の結果は、3秒の遅延再生条件のADHD児の成績は定型発達児よりも有意に低い結果を示した。一方、直後再生条件では、グループ間に有意差は認められなかった。この結果は、ADHD児の記銘時における不注意が成績の低さの原因ではなく、記憶痕跡の急速な衰退が主たる原因であることを明確に示している。なお、ハンガリーのブダペストで開催された6th International Conference on Memoryにて本研究の成果を報告した。 空間短期記憶と学力(算数および理科)の関連性の検討については現在も継続している。
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