研究課題/領域番号 |
26380925
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研究機関 | 東京女子大学 |
研究代表者 |
花田 里欧子 東京女子大学, 現代教養学部, 准教授 (10418585)
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研究分担者 |
古山 宣洋 早稲田大学, 人間科学学術院, 教授 (20333544)
入野 俊夫 和歌山大学, システム工学部, 教授 (20346331)
井上 雅史 山形大学, 大学院理工学研究科, 助教 (50390597)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 傾聴 / 臨床心理学 / 臨床心理面接 / 音声聴覚 / 認知科学 / 情報科学 |
研究実績の概要 |
研究の目的:カウンセリングでは、セラピスト(Th)が聴いているつもりでも、クライアント(Cl)はそう思えなかったり、聴いてくれていると思えても聴いているだけでなにも変わらないと不満に思ったりすることがある。このようなThの傾聴とClの感情状態とのあいだで「ズレ」はいかに生じ、解消しうるのか?本研究は、Clが効果を実感できる聴き方を支援することを目的に、(1)傾聴概念の再考と(2)傾聴教育プログラムの開発に取り組む。(1)傾聴概念の再考では、発話・身振り・口振りと感情の評価値に関する定量的な観測データをもとに、質問技法や受容的な言葉がけが、どのように傾聴概念を構成するかを明らかにする。(2)傾聴教育プログラムの開発では、傾聴にまつわる「ズレ」を解消しながら「聴く」ために、Thが効果的に運用し得る知識を実践的に明らかにする。 研究実施計画: (1)傾聴概念の再考: 収録済みの44件の臨床心理面接データに関して、発話内容のテキストとマイクロカウンセリングによる特徴ラベル付与をすすめ、臨床心理面接コーパスの完成をはかる一方で、一連の手続きをマニュアルにまとめ、作業の効率化と質について確保および共有できるようにした。 (2)傾聴教育プログラムの開発: (1)より傾聴学習支援開発のための傾聴概念に関する基礎データを得たので、心理臨床家教育におけるその実装をすすめ、臨床心理面接コーパス、ならびに評価値を連続的に時系列で入力できる感情推移観測システム(EMO system)を用いて、評価者の感情状態の定量化を行った。以上について、現段階での傾聴教育プログラムの開発状況を成果報告し、傾聴学習支援の実際を提案した。これにより、傾聴学習支援に際して、心理療法における諸技法を運用評価するための新しい手法の活用可能性や従来のアプローチとの比較について議論する機会を得て、今後の課題を展望することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の進捗状況は以下の通りである。 (1)傾聴概念の再考: 従来の作業を着実にすすめるなかで、新規作業者を増員し、複数の作業者間で手続きにぶれが生じないようにするためのマニュアルを整備した。アノテーションはすべて手作業によるので一定の時間を要するものではある。しかし、臨床心理コーパスをより豊かにしていけるような体制を工夫して構築することで、多様な傾聴概念をひとつひとつ明らかにし、その整理をいっそうはかっている。 (2)傾聴教育プログラムの開発: (1)をうけて本研究が提案する傾聴教育プログラムについて、主に2件の成果報告をした。ここでは、フロアより様々な専門的観点から多くの意見を得たので、今後の分析のアプローチについて新たな観点からさらに検討をすすめている。成果報告の内容は以下の通りである。まず、臨床心理面接コーパスから、心理臨床歴の異なるセラピストによる面接を1対話ずつ計2対話抽出し、心理臨床歴の等しい評価者2名にEMO systemを用いて傾聴評価をしてもらった。得られたEMO 評価値について、面接2対話および評価者2名の比較検討を行った。その結果、初心のセラピストにしばしばみられる面接の効果(評価値が低く)や安定が保たれにくい(評価値の分散が大きい=上下の変動が著しい)ことがあるといった特徴が、傾聴を軸とした評価の点からも一致した。また、評価者2名によるEMO評価値を得たが、同一面接に対して評価しながら、事例ごとに評価者間で評価の仕方が異なっていることが明らかとなった。さらにこれをうけて、臨床心理面接コーパスから3対話を抽出し、評価者がEMO systemによって付与した傾聴評価と、マイクロカウンセリングによって付与したタグとの対応について比較検討した結果、EMO評価値とマイクロカウンセリングのタグ付けが傾聴評価のための異なる視点を提供しうる可能性が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の今後の推進方策について以下のように取り組む。 (1)傾聴概念の再考: 整備したマニュアルをもとに、臨床心理コーパスの完成と充実をはかり、傾聴概念の多様性を明らかにしつつ、その共通基盤を実データに基づく形で提示していきたいと考えている。 (2)傾聴教育プログラムの開発: 当該年度に行った成果発表をふまえて、傾聴教育プログラムの精度を高めつつ、実際の教育場面での活用を拡大し、そこでの活用状況についても、適宜発表していきたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度となる平成26年度に研究代表者が年度途中に転出し、研究実施場所の変更にともなう研究体制の再構築等をはかる必要があった。計画の遅延を最小限に抑えられるよう努力したが、なお生じた遅延による計画の変更や、目的をより精緻に達成するため、補助事業期間を延長した。これにより、臨床心理コーパス作成にかかわるアノテーション作業を継続発展させ、傾聴を特徴付ける対話についての実証的な分析をすすめて、傾聴教育プログラムの完備につなげる。
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次年度使用額の使用計画 |
アノテーション作業を実施するための謝金として利用し、作業にあたる人数や時間数を可能な限り増やして、研究のさらなる進捗をはかる。
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