研究課題/領域番号 |
26380926
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研究機関 | 兵庫教育大学 |
研究代表者 |
遊間 義一 兵庫教育大学, 学校教育研究科(研究院), 教授 (70406536)
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研究分担者 |
金澤 雄一郎 筑波大学, システム情報工学研究科(系), 教授 (50233854)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 性犯罪受刑者 / 処遇効果 / 生存分析 |
研究実績の概要 |
平成19年7月以降に全国の刑事施設に性犯罪で入所し,同23年12月までの間に出所した男子受刑者2,147名のうち,重度の精神疾患を有するなどの5つの除外条件に該当する者を除いた1,891名を対象とし,平成24年3月までの再犯に関する追跡データを基に,性犯罪者処遇プログラム(処遇群1,270人,非処遇群621人)の再犯抑止効果を検証した。処遇群と非処遇群は,無作為に割付けられていないため,傾向スコアを用いた共変量調整を行った。具体的には,先行研究で再犯に関連すると考えられる共変量55項目について,処遇の有無を応答変数とするlogistic回帰分析を行い,処遇群への割付け確率を傾向スコアとし,その逆数をInverse Probability Weighting (IPW)として次のstepで行う生存分析の重み付けをした。このIPWにより,処遇群と非処遇群との共変量の違いは,全ての共変量において10%以内に減少しており,共変量調整がよくなされていることが確認できた。生存分析では,パラメトリックなモデルを用い,様々な数理モデルを比較したうえで,ハザード関数をgeneralized gamma分布としたaccelerated failure time formを持つモデルが,最も当てはまりがよいことが分かった。これに基づき,性犯罪者処遇プログラムの効果を推定すると,同プログラムは,再犯期間を1.4倍に伸ばす効果があることが分かった。また,安倍内閣が政策目標の指標としている2年後再犯率についてthe average treatment effect (ATE)を求めると,処遇群と非処遇群との差は2.9%,減少率は17.8%となった。これらの結果は,法務省矯正局成人矯正課及び府中刑務所処遇効果検証班に適宜報告しており,また,第53回日本犯罪心理学会大会及び第67回アメリカ犯罪学会大会で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
以下の2点を達成したことにより,設定した目標はおおむね達成されたと言える。(1)昨年度は分析対象を強制わいせつを犯した受刑者に限定したが,本年度は対象を性犯罪受刑者全般に広げ,彼らの再犯に関して,傾向スコアを用いて共変量調整を行い,生存分析により,処遇効果を検証することができた。(2)傾向スコアによる調整によるbiasの除去が昨年度より効果的にできた。
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今後の研究の推進方策 |
以下の2点である。(1)処遇効果が,全ての犯罪を対象とした再犯を結果変数とした解析では確認されたにも拘わらず,性犯罪の再犯だけを結果変数とした解析では,確認されなかった。この理由の検証を行う,(2)性犯罪受刑者の異質性に着目した検証を行う。(1)と(2)は,おそらく密接に関連しており,(2)が解明されれば(例えば,現行の性犯罪者処遇プログラムは,強制わいせつと強姦には性犯の抑止に効果があるが,痴漢にはないといったことが分かれば),(1)も分かるようになるものと期待される。
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次年度使用額が生じた理由 |
差額は,主としてPCの購入を平成27年度までに行わなかったことによるものである。その理由は,現在使用中のPCは高度な統計計算では速度が遅いものの使用には耐えうるので,できるだけ長く使用し,限界に達したところで,最新のPCの購入に充てる方が,コスト・パフォーマンスが高いと判断したためである。
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次年度使用額の使用計画 |
現在使用中のPCは既に高度な統計モデルを推計するときには,かなりの時間を有する状態にあることから,本年度中に新たにPCを購入する予定である。
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