平成28年度は,平成19年7月以降に全国の刑事施設に性犯罪で入所し,同21年12月までの間に出所した男子受刑者677名のうち,重度の精神疾患を有するなどの5つの除外条件に該当する者を除いた598名を対象とし,平成24年3月までの再犯に関する最短3年間の追跡データを基に,性犯罪者処遇プログラム(処遇群331人,非処遇群267人)の再犯抑止効果を検証した。処遇群と非処遇群は,無作為に割付けられていないため,傾向スコアを用いた共変量調整を行った。具体的な方法及び共変量調整の効果は,昨年度と同様である。本年度は,上記受刑者の中で質的に異なったグループの存在の有無を確認した。その結果,受刑者を等質な群と仮定するモデルよりも,条例違反群と非条例違反群とでは異なった再犯過程を有していると仮定するモデルのほうが適合度が高いことが分かった。なお,生存分析では,パラメトリックなモデルを用い,様々な数理モデルを比較したうえで,ハザード関数をgeneralized gamma分布としたaccelerated failure time formを持つモデルが,最も当てはまりがよいことを確認したうえで,処遇効果の推定にはこれを用いた。上記に基づき,性犯罪者処遇プログラムの効果を推定すると,条例違反群は,非条例違反群に比べてハザード比が高く,処遇効果は出所後100日以降に表れるのに対して,非条例違反群は,処遇効果は出所直後から表れ,600日後には消失することが分かった。これらの結果は,法務省矯正局成人矯正課及び府中刑務所処遇効果検証班に適宜報告しており,また,第54回日本犯罪心理学会大会及び第68回アメリカ犯罪学会大会で発表した。
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