(市井担当部分)EMDRで用いられるような水平方向の眼球運動が、記憶課題に関して、抑制的に働くのか、促進的に働くのかを検討した。 大学生・大学院生24名に対して、脅威語を6語、中立語を30語抽出し、提示し、再生させた。固定条件では参加者は画面中央のドットに注視しながら、EM条件では1秒につき1往復の速さで水平に動くドットを目で追いながら課題を行った。熟語はドット内に提示された。参加者は熟語を記銘し、その直後に提示される記号の向きをキー押しによって弁別した。12試行実施後に覚えた単語を紙上に再生した。初めの3語と終わりの3語は中立語で、初頭効果、新近性効果の除去のために分析に使用しなかった。 条件(固定/EM)×感情価(脅威語/中立語)を参加者内要因とした2要因分散分析を行った。反応時間については、条件による主効果と、条件と感情価の交互作用は見られず、感情価の主効果に傾向としての差がみられた。再生数の平均値について分散分析を行った結果,条件の主効果と、条件と感情価の交互作用は見られなかった。条件によって反応時間と再生数が異なるとは言えなかった。この結果からは、ワーキングメモリー(WM)モデルを支持するとは言えなかった。WMに負荷をかけても課題の成績に影響がなかった理由は、負荷をかけるのと同時に情報処理を促進する要因が働いた可能性も考えられる。 (吉川担当部分)発達障害の子どもの養育者2名に対して、日々の子育て中の不快な出来事の記憶をEMDRで処理し、子育て中の不安の変化を検討した。前後で心理状態と生理状態(心拍変動)を測定した。その結果共通して、不安には変化が見られず、否定的な気分が改善した。一方、相違点は、1人は疲れが減少し、自尊感情が上昇し、もう1人は、疲れが増し、自尊感情に変化は見られなかった。終盤に想起したイメージに対応するような自律神経系の変化が見られたと言える。
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