研究実績の概要 |
恐怖および不安を体験した後,それと類似した場面に遭遇すると,再び同じような体験をするのではないかと大なり小なり心配になる。以前体験した不安や恐怖を予期し,「不安に関する恐怖」を抱くためである(Reiss, 1987)。Reiss(1991)はexpectancy model を提唱し,「不安に関する恐怖」は期待成分と不安感受性によって構成されていると指摘している。期待不安は特定の刺激と不安もしくは恐怖という反応の連合学習過程であり,不安感受性は,不安は破局的な結果をもたらすという信念を中心として構成されている(Reiss, Peterson,et al.,1986)。Norton et al.(1997) は社交不安障害と不安感受性の関係を検討し,社交不安が強いほど不安感受性も強いことを明らかにしている。健康な大学生においても,不安感受性の高い人は低い人よりも不安などの情動的反応や身体症状が高い(百々,2013)。不安感受性の程度は,不安や痛みに対する認知的評価のみならず,身体反応へも影響していると考えられる。そこで我々は,健康な大学生を対象とし,コールドプレッサーテストによる痛み経験時の痛みの程度と自律神経反応への不安感受性が及ぼす影響について検討した(Dodo & Hashimoto, 2017)。その結果,不安感受性の高い人は低い人よりも冷水に浸漬することで痛みの主観的評価得点が強く痛みを訴えていた。自律神経反応への影響については,不安感受性の低い人は冷水から手を抜いた回復期においても有意に高いままであったが,不安感受性の高い人は低くなっていた。しかし,冷水から手を抜いた回復期において,不安感受性の高い人では副交感神経機能が十分に働かなかったことから,健常な対象者であっても,高い不安感受性は副交感神経機能の働きを妨げていることが示唆された。
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