覚せい剤依存症者に対する認知行動療法に基づく治療プログラムを開発し,社会内の民間医療機関において実施した。 わが国では,覚せい剤依存は専ら犯罪として取り扱われ,刑罰一辺倒の対処が主流である。最近になってようやく刑事施設の中で,覚せい剤依存症治療プログラムが実施されるようになり,一定の成果を収めつつある(研究課題22530754「覚せい剤受刑者に対する薬物渇望統制のためのコーピングスキル訓練プログラムの開発」)。 本研究は,同様の治療プログラムを社会内の医療機関で実施できるように開発したものである。治療アプローチは,刑事施設のプログラムと同様の認知行動療法であり,施設内と社会内で治療アプローチの一貫性が保たれるように工夫した。刑事施設のプログラム同様,アメリカで開発されたマトリックス・モデルを元にして,わが国の覚せい剤依存症者の特徴やわが国の文化社会的背景を考慮して改変した。具体的には,わが国において覚せい剤使用の引き金になりやすい刺激や状況を特定したり,スピリチュアルな要素を軽減したりした。 さらに,社会内での治療であることから,生活スケジュールの策定,薬物使用に代わる代替行動の同定と実行,ソーシャル・サポート・ネットワークの構築,渇望への対処などに特に焦点を当てたプログラムとした。 プログラムは,週1回60分間,12か月間にわたって,臨床心理士が試行的に実施した。プログラム評価においては,患者の薬物再使用の有無,治療継続,心理的変数(セルフエフィカシー,コーピングスキル)の変化などのデータを収集することとした。
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