研究課題/領域番号 |
26380959
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研究機関 | 明星大学 |
研究代表者 |
柴崎 光世 明星大学, 人文学部, 教授 (00325135)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 頭部外傷(TBI) / 認知リハビリテーション / 近赤外分光法(NIRS) / 事象関連電位(ERP) / 表情認知 |
研究実績の概要 |
本研究は,頭部外傷(TBI)者の社会的認知障害のうち表情認知障害に着目し,その評価方法と効果的なリハビリテーション方法について,行動データと近赤外分光法(NIRS)や事象関連電位(ERP)による脳活動データを用いて,多角的に検討することを目的とする.平成28年度は,平成27年度に引き続き,TBI者の表情認知障害の特徴や機序について検討するために,下記の3つの臨床的研究を実施した(研究2). 1.TBI者の表情認知能力の定量的評価(研究2a):研究1aと同一の表情認知閾課題を用いて,6つの基本表情に対するTBI者の感受性について前年度に引き続き検討した結果,TBI者ではネガティブ表情に対する感受性が弱化していること,また,TBI者では,健常者とは違って,ネガティブ表情をポジティブ表情と誤認する傾向が強いことが確認された. 2.表情認知と関係する脳賦活部位の検討(研究2b):研究1bで開発した表情認知課題を使用して,TBI者の課題遂行中の前頭前野の脳血行動態をNIRSにより測定した.その結果,TBI者においても,健常者と同様に,表情の違いや表情の明瞭度の違いに伴って前頭前野の脳血行動態が変化する傾向が認められ,TBI者であっても,NIRSによって表情認知と関連する前頭前野の血流変化を捉えられることが示唆された. 3.表情認知障害の機序に関する検討(研究2c-2):TBI者の表情認知障害の発現機序について調べるため,TBI者の顔特異的なERP成分(N170)の特徴について検討した.その結果,TBI者においてはN170が惹起されにくいことが研究2c-1と同様に確認されたのに加えて,N170における顔特異性効果もTBI者では減衰していることが示された.このことから,TBI者の表情認知障害にN170によって反映される初期の顔知覚過程の問題がかかわっている可能性が示された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画では,平成28年度に,TBI者の表情認知障害に対して認知リハビリテーションを実施する介入研究に着手する予定であった.しかし,平成27年度にNIRS研究の研究計画の修正が生じたことにより,平成28年度にこれと関連した基礎データの再収集および臨床データの収集をおこなう必要が生じたこと,そして,平成27年度の結果を受けて,ERP研究において,TBI者の顔特異的なERP成分(N170)の特徴についてより詳細に検討するために,追加実験(研究2c-2)をおこなう必要が生じたことから,研究進捗に遅れが生じ,予定していた表情認知障害の介入研究が実施できなかったため.
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今後の研究の推進方策 |
●表情認知障害の介入研究を促進させるために,臨床研究のフィールドであるNPO法人TBIリハビリテーションセンター(台東区池之端)と業務委託契約を結び,リハビリテーションの実施補助や,各種心理検査データに対するデータ収集補助業務を委託する ●TBI者を対象とした脳活動データの収集を促進させるために,3名程度の学生リサーチアシスタントに実験補助及びデータ解析補助を依頼する ●TBIリハビリテーションセンター内において,研究の進捗状況の確認や個々の症例に関する情報共有を目的としたミーティングを定期的(月に1~2回程度)に実施し,臨床研究の推進をはかる
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度には予定していた国内学会出張を,当初計画を変更して日帰りでの出張としたため,7500円程度の次年度使用額が生じた.
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次年度使用額の使用計画 |
上記の次年度使用額については,平成29年度に雇用する予定の学生リサーチアシスタントの経費の一部に充てることとしたい.
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