研究課題
本研究は,頭部外傷(TBI)者の社会的認知障害のうち表情認知障害に着目し,その評価方法と効果的なリハビリテーション方法について,行動データと近赤外分光法(NIRS)や事象関連電位(ERP)による脳活動データを用いて多角的に検討することを目的とした.平成29年度は,平成27年度~28年度におこなった表情認知能力の定量的評価(研究2a)により.表情認知障害が明らかとなったTBI者を対象に,当該障害の改善をめざした認知リハビリテーションを実施した(研究3).訓練では,表情認知に至る視覚情報処理過程のなかで,顔の形態知覚,表情の知覚的・意味的照合,表情の同定の3つをとりあげ,各過程の機能促進を標的とした訓練課題を対象者の習熟度を確認しつつ段階的に実施した.あわせて,反復訓練,即時フィードバック,表情刺激の模倣,各表情に特徴的な顔の構成要素(目・鼻・口など)に注意を向けさせる注意方略といった訓練技法も使用した.8名のTBI者に対し,約7か月の表情認知訓練をおこなったところ,6つの基本表情に対する患者の平均識別感度が訓練後では訓練前と比べて有意に高くなった.特に,喜び,怒り,嫌悪,恐怖の各表情では改善傾向が目立つ結果となった.他方,脳活動データでは,ERPやNIRSの各指標において個人間でばらつきが大きかったものの,顔知覚に関連するERP成分(N170)に関して,訓練前と比較して訓練後に潜時が短くなる傾向が認められた.この結果は,集中的な表情認知の反復訓練後に,患者の表情認知能力が向上しただけでなく,脳内において顔知覚と関連する処理効率が促進された可能性を示している.さらに,本研究で実施した表情認知訓練の般化について検討したところ(研究4),顔知覚(正立・倒立顔の知覚的照合課題)と遂行機能(TMT-Part2)の各課題において認知成績が改善する傾向が認められた.
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