研究課題
本研究では、発達・情動・神経科学の3方向からのアプローチにより、社会行動(他者理解)に関わる脳システムを明らかにすることを目的とした。本研究の特徴は、研究対象をマウス、デグーそして乳幼児に拡張し、これらの行動実験の結果を社会性の萌芽の視点で統合することを試みた点であった。まず、最終年度に行った研究について記述する。幼若期のマウスを対象とした研究では、絆ホルモンと呼ばれるオキシトシンの投与が、思春期マウスの社会的課題の解決に与える影響を検討した。また、オキシトシン受容体の阻害することで、マウスの長期の社会的認知機能に悪影響を及ぼすか否かを検討した。オキシトシンの投与は、社会的課題の遂行を促進すると仮説を立てたが、むしろ阻害するという結果を得た。オキシトシン受容体の阻害は社会的認知機能に影響しなかった。デグーを対象とした実験において、眼窩前頭皮質の損傷が社会行動および物体認知に及ぼす影響を検討したところ、物体の空間的な認知にOFCが関与する可能性が示唆された。しかし、社会行動にOFC損傷の影響はみられず、社会行動におけるOFCの関与は不明であった。乳幼児を対象とした研究では、絵本を媒体とする母子相互作用を紙媒体と電子媒体で比較した。子の注視特性を分析したところ、電子媒体では共同注視が減少することが分かった。また、その減少により母親の注視パターンも減少するといった双方向の影響があることが明らかとなった。成人による絵本読み聞かせ時における脳活動を測定したNIRS実験では、絵本を抑揚をこめて読み聞かせる場合に左頭頂葉と右下前頭回の活動が高まる結果を得た。研究期間全体を通して、幼齢期の母子関係やまたそれに関連するであろう脳部位、内分泌システムの操作は、成長後の認知に影響する可能性が示された。
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Psychologia
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