研究課題
我々はこれまでマウスを用いて、発情期レベルのエストロゲンでは情動行動は抑制されるが、妊娠期に相当する高濃度の場合はむしろ情動行動が増大することを確認した。しかしながら、多くの情動関連行動テストの測度は「不動」や「すくみ」などの行動を含むため、一般活動性の影響を強く受ける。そこで、エストロゲンの対極的情動調節効果が、一般活動性の変化を介したアーチファクトではないことを確認するため、本年度はまず、これまでと同様のホルモン操作手続きを用いて、マウスのホームケージ内回転輪走行活動を測定した。その結果エストロゲンの慢性投与は、用量にかかわらず、卵巣切除メスと比較して、走行輪活動によって測定されるメスマウスの一般活動性を増大させ、少なくとも高濃度のエストロゲンによるメスマウスの情動関連行動増大は、一般活動性の変化を原因とするものではないことが示された。次に、PTSDなどの情動障害の動物モデルとして一般的に用いられる恐怖条件づけ学習に対しても、エストロゲンが同様の効果を発揮するかを検討した。卵巣を摘出したメスマウスへ用量の異なるエストロゲンを長期慢性投与または単回急性投与し、文脈的恐怖条件づけと手がかり恐怖条件づけの2種類の恐怖条件づけテストでの恐怖反応を測定した。その結果、投与期間に関わらず、エストロゲンの高用量処置は、文脈的恐怖条件づけテストにおけるマウスのすくみ行動を促進させたが、手がかり恐怖条件づけテストにおいては、エストロゲン処置による差は示されなかった。文脈的恐怖条件づけは海馬依存、手がかり恐怖条件づけは扁桃体依存とされているため、本研究における相異は、恐怖学習に対するエストロゲンの作用部位を反映したものであると推測される。
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eNeuro
巻: 3(2) e0155-15.2016 1-14. ページ: -
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最新女性医療
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