オペラント(道具的)条件づけは、我々ヒトを含むほとんどの生活体に備わっている、基本的学習システムであると考えられている。我々生活体が何かの行動を行った後、良い結果(強化)が伴えば、その行動の生起頻度は増加し、逆に何かの行動を行った後、よくない結果(罰)が伴えば、その行動の生起頻度は減少するという現象である。しかし、後者の、罰が行動を抑える効果は、強化が行動を強める効果と比較し、さほど強くはないという非対称性が、特に現実場面においてみられることがこれまでの研究で明らかになっている。にもかかわらず、療育や教育などの場面では、体罰による問題がたびたび報じられるなど、日常的に罰が用いられているという現実があり、この間には明らかな矛盾がある。本研究は、この罰に関する効果と、日常に見られる「罰信仰」とでもいうべき信念の間の矛盾について、関係性学習の観点から実験的に明らかにすることを目的とするものである。 令和元年度は、申請者が所属研究機関を移籍したことで、新たな研究室の立ち上げや調整が必要となり、また年度末には新型感染症の流行により、参加者と対面しての実験研究に支障が出たことも重なり、研究の実施が順調とは言えない状況であった。しかし、このような中でも、これまで確立した、架空の場面において罰および強化の効果の認知を明らかにする実験事態において得られたデータから、いくつかの新たな知見が示唆された。これらは、罰だけではなく強化の効果についての認知も、標的となる反応の密度に影響を受けること(強化の効果も平均への回帰による影響を受ける可能性があること)、その効果は、反応確率の増減がない(つまり、罰や強化に効果がない)場面であってもみられること、などである。これらは先行研究の発見を裏付けさらに拡張するものであると考えられる。
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