本研究者は、これまでにヒトとヒトとの間のコミュニケーションにおける音楽の情動情報伝達について、音楽の構造自体を体系的に分析するモデルの構築およびその心理生理的検証を行ってきた。その結果、旋律と機能和声との組み合わせにより終止度の異なる終止構造が構築され音楽階層構造の基盤となること、さらに特定の終止構造をもつ和音列の聴取により、次に聴取することにより終止度の高い終止構造が完成される場合、終止構造を完成させるその和音の聴取への期待の脳活動が表出することを明らかにした。本研究の目的は、この音楽階層構造モデルを利用し、音楽構造とその情動情報伝達による報酬系との関係について心理生理学的計測により分析するとともに、EEG、MEG、fMRIを組み合わせた脳機能計測により、その神経基盤について明らかにすることである。当初の研究期間には、終止構造D-Tを構成する楽音の組み合わせと心理評価との結果をもとにEEG計測と解析を行なった。またMEGが故障していたためfMRIを用いた計測と解析を行い、他機関にてMEG計測を開始した。しかし、初年度以降のMEGの故障による研究の遅れに加え、研究者本人が実母と同居介護を行わなければならない状況にあったため、1年間の研究期間延長を行った。延長期間には、MEG計測と解析およびfMRI計測データによる機能結合の解析と論文執筆を行った。その結果、音楽が終止構造によりまとまりとして認識される際、脳内では音響情報処理が行われると同時に、情動および運動に関する領域の活動が有意に高まった。さらに大脳皮質前頭前野における実行機能に関連する領域の活動が上昇し、領域間の活動に相関が認められた。この結果は、第33回日本生体磁気学会大会、Neuro2018にて発表の予定である。
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