研究実績の概要 |
本研究の目的は、脳波の低ガンマ帯域におけるチャンネル間位相同期性が直感的な選好の情報処理を反映している可能性について検討することであった。平成26年度に実施した研究では、無意味図形に対する直感的な選好判断において、「嫌い」と答えた無意味図形と比べて、「好き」と答えた無意味図形を観察している時に低ガンマ帯域の位相同期性が減少するという現象を発見した。平成27年度に実施した研究では、無意味図形を繰り返し提示によって「好き」と答える割合が増加する現象(単純接触効果)に着目して実験を行った。その結果、繰り返し提示された無意味図形では「嫌い」と答えた無意味図形と比べて「好き」と答えた無意味図形を観察している時に40-50 Hz帯域の位相同期性が増大するという結果が得られた。このことから、直感的選好のバイアスと繰り返し提示によって生じる選好のバイアスとが異なるプロセスで生起している可能性が示唆された。 そこで平成28年度は、特定の刺激を無視した後にその刺激を「嫌い」と答える割合が増加する現象(Distractor Devaluation効果; DD効果)に着目して、低ガンマ帯域の位相同期性の変化を検討した。過去の研究(Kihara, Yagi, Takeda, & Kawahara, 2011, JEP:HPP, 37, 168-179)において無意識レベルでのDD効果が確認されている注意の瞬き課題を用いて、選好判断時の位相同期性を算出した。その結果、DD効果が生じていると考えられる試行において低ガンマ帯域の位相同期性が増加する傾向が認められた(p < .07)。統計的に有意な結果ではなく確定的な結論に至ることはできなかったものの、無意識レベルで生じるDD効果は直感的選好のバイアスと類似したプロセスによって生じている可能性を示唆するものである。
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