本年度は、まず、本研究課題の理論枠組であるP・アドの「霊的な訓練」の内容をより精緻に理解するための作業として、一昨年度・昨年度に引き続き、アドの『古代哲学とは何かQu'est-ce que la philosophie antique?』の邦訳作業をさらに進め、概ね訳し終えた(本邦訳は平成29年度に刊行する予定である)。 また、ルソー教育思想・哲学をめぐる従来の諸研究の再検討・再分析も継続して行った。そうして、これまで教育学研究ではサブテクストとして扱われてきたルソーの自伝的著作群(『告白』、『ルソー、ジャン=ジャックを裁く』、『孤独な散歩者の夢想』等)をむしろメインテクストと捉え、ルソーにおける「孤独」の教育的意義に着目しながらそれらを読解することで、彼の教育思想や哲学を「自己実践」として捉え直すという本研究課題の今後の展開の方向性や可能性・妥当性をより一層明確にした。その上で、ルソーの自伝的著作群をめぐる諸先行研究も再検討・再分析し、これらの著作群を文学的作品であると同時に哲学的著作としても読解できることを明らかにした(本成果は論文としてまとめ刊行した)。さらに、アドや思想史研究者J・ドマンスキーらの研究に鑑みれば、ペトラルカの著作に加えてマルクス・アウレリウスの『自省録』等も本研究課題の今後の参照枠となり得る著作であり、これらを参照枠とすることで、「自己実践」としてのルソーの教育思想・哲学の思想史的意義をより精緻に分析し解明できるという可能性をも明らかにした。 さらに、ルソーの教育思想が戦後の日本において教育実践の場でどのように受容され具体化されたのか、「国民の教育権論」という観点からその特徴と問題点とを解明した昨年度の研究成果を論文にまとめ刊行した。
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