研究課題/領域番号 |
26381007
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
八鍬 友広 東北大学, 教育学研究科(研究院), 教授 (80212273)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 識字 / リテラシー |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、中世末期から近世初期にかけての署名史料(花押等を有する史料)を収集し、署名者の分布状況を明らかにすること、および、その分布状況を、当該地域の産業構造や階層構造などの地域構造と関連づけて検討することである。このため、主として福井県、京都府、滋賀県およびその他のいくつかの地域における事例調査をおこない、その研究成果を論文または著書にまとめることとしている。 本年度においては、このうち福井県に対する研究をおこなった。福井県については、これまで数度にわたる事例調査をおこなっており、この結果、当該地域における識字状況の一端を知り得る有力な署名史料を収集してきたところである。本年度は、この調査結果にもとづき、「越前・若狭地域における近世初期の識字状況」という論文を執筆した。論文は、2014年10月に刊行された大戸安弘・八鍬友広共編『識字と学びの社会史-日本におけるリテラシーの諸相-』(思文閣出版)のなかに掲載されている。これにより、当該地域における都市部と農村部の識字状況の相違があきらかになった。すなわち、小浜のような地方都市においても、長崎や京都などのような中心的な都市地域と同様に、花押を記す程度の識字力が広範に分布しているこ、および農村部との格差などが明らかになったことは重要である。 論文では、また越前国今立郡岩本村における、地域構造と識字との関連についても考察した。この結果、商業化の展開する同地域における識字状況が上昇しつつあったことを明らかにした。 以上のほか、和歌山県、愛知県、群馬県などにおいて、識字関係史料に関する予備的な調査をおこなった。これは、中世末期から近世初期にかけての民衆署名史料の存在状況を確認するための調査であり、福井県等における事例の全国的な位置づけを明らかにするために必要な調査である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要に記したように、当初の計画である、福井県の識字状況に関する研究が一段落し、論文にまとめることができた。 なお、本研究において調査対象となっている民衆署名史料(花押などを記した史料)の全国的な分布状況をある程度把握しておくことが不可欠なので、いくつかの地域を抽出的に調査することが必要であるが、これについても、三つの地域を調査することができた。 以上により、研究計画は、おおむね順調に進展しているということができる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、福井県におけるさらなる調査研究をおこなうと同時に、滋賀県、京都府における調査をおこなっていく予定である。 このみっつの地域は、これまでの予備的な調査において、民衆署名史料がもっとも豊富に存在している地域である。とくに福井県においては、福井県文書館による収集・整理がきわめて充実しており、また周辺的な史料も豊富なので、本研究全体と通じて、さらに調査研究を掘り下げていきたい。 平成27年度においては、福井県に関する以上のような継続調査をおこなうと同時に、京都府、滋賀県における調査に着手する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
予算の消化にあたっては、効率的な使用を心がけており、その結果、若干の残金が発生したものである。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度の予算と合わせて使用する予定である。
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