研究課題/領域番号 |
26381007
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
八鍬 友広 東北大学, 教育学研究科, 教授 (80212273)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 識字 / リテラシー |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、前近代日本における署名史料(花押等を有する史料)を収集し、署名の分布状況を明らかにすること、およびその分布状況を、産業構造や階層構造などの地域構造と関連させて検討することである。また、あわせて近代以後における識字率調査についても、当該地域における近代以前の識字の到達点を示すものとして、比較対照のための調査をおこなうものである。 本年度においては、滋賀県、神奈川県、名古屋市、金沢市、山形市などにおいて資料の調査・収集をおこなったところである。この結果、民衆の署名史料の分布が、西日本、とくに近畿およびその近郊地域に偏っていることをあらためて確認するにいたった。また、識字能力形成のための教材である往来物の所在、およびその周辺史料についての調査もおこなった。この結果、目安往来物に関連するあらたな史料の収集をおこなうことができた。 年度内に、これまでの研究成果をまとめた論稿も刊行されるにいたった。具体的には、滋賀県における明治期の識字率調査に関する資料調査をおこない、明治期の識字率調査としてももっとも有力なものとなっている滋賀県の事例について、その調査概要を把握しまとめた論文が刊行された(八鍬友広「明治期滋賀県における自署率調査」東北大学大学院教育学研究科『研究年報』第64集第2号)。 日本における識字率調査に関するもうひとつの有力な事例となっているのは、山口県であるが、同県における識字率調査と就学率調査の結果を、近代以前の寺子屋などの実態とも関係させて考察した論稿も刊行された(八鍬友広「民衆教育における明治維新」明治維新学会編『講座明治維新 第10巻 明治維新と思想・社会』有志舎)。 今後は、京都府、滋賀県、福井県などにおいてさらに調査をおこなう予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、前近代日本における識字と地域構造との関連について検討することであり、また、このような研究結果を近代以後における識字や教育の進展と関係させて考察することである。 前近代の識字については、すでに、福井県についての調査結果をまとめ論稿として公刊している。この研究をさらに進展させつつ、明治期における識字調査や就学実態と関係させた調査研究を展開しているところである。本年度においては、基礎的な調査を継続的に実施した。また、明治期についての研究が公刊されるにいたった。 今後は、いくつかの地域的な事例調査を実施すると同時に、研究をまとめて著書として刊行するための準備にかかることが必要となる。
|
今後の研究の推進方策 |
今後も、ひきつづき地域的な事例調査を実施すると同時に、研究成果をまとめて社会的に還元する段階へと移行していくことが求められている。 地域的な事例調査としては、福井県、滋賀県、京都府などにおいておこなうことが必要である。以上についての調査を引き続きおこなうと同時に、とくに有力な史料の得られる地域に特定した調査研究をおこなう。 研究をまとめ、著書として刊行する準備に着手する。本研究計画である平成30年度内における執筆を目指して、研究のまとめをおこなっていく予定である。 このためには、地域的な事例のみならず、日本における識字や読み書きの歴史についての概略的な把握も必要となる。これらについての先行研究をまとめると同時に、自らがこの間おこなってきた研究を、先行研究に組み込んで、ひとつの体系的な歴史像を構想することが必要となる。今後は、とくにこの点に力点を置いて研究を進めていく予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
予算の消化にあたっては、効率的な使用を心がけており、その結果、若干の残金が発生したものである。
|
次年度使用額の使用計画 |
平成29年の予算と合わせて使用する予定である。
|