研究課題/領域番号 |
26381018
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
太田 孝子 岐阜大学, 留学生センター, 教授 (00293580)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 留学生支援 / 異文化理解 / 内鮮融和 |
研究実績の概要 |
柳原吉兵衛は3度(1928年、30年、34年)にわたって朝鮮人女子教員内地学事視察を企図したが、学事視察の全体像を把握し、朝鮮総督府主催の学事視察と比較することにより、以下の結論を得た。 ①内地学事視察における諸経験を教育の中で発揮させようという意図のもと、朝鮮各道から選抜・招待された女子教員は計57名である。内地留学後教員になった10名も、リーダーとして参加した。小学校の視察を通し、女子教員たちは設備の差など朝鮮との違いを実感したものの、特に生産・労働教育、礼儀作法、教授法に関心を示した。第1回参加者が労働教育を実施して予想外の実績を上げるなど、朝鮮教育界に及ぼした影響は大きかった。 ②しかし、一度目の視察の目的は「未曾有の御大典(昭和の即位式)に招待すること」であり、二度目は「李王家御成婚十周年記念並びに新邸の奉祝を申し上げること」であったように、柳原の企図した視察の特徴は、天皇即位式関連諸行事の拝観、李王家・朝鮮総督府関係者宅への訪問等によって皇室・王室関係者に女子教員を引き合わせていることであり、総督府主催の内地学事視察とは著しく異なっている。 ③柳原は自身が営む大和川染工所が完成させたカーキ色軍服地が献上品御嘉納の上、お買い上げとなったこと等を通して皇室に対する尊崇の念を深め、皇室・朝鮮王室への衷心恐懼を朝鮮人女子への支援活動という形で実行していった。柳原の皇室への尊崇の念は、キリスト教信仰と矛盾するものではなかった。 ④朝鮮人女子学生が作製した刺繍や絵画を皇室に献上し、優秀な女子学生・女子教員たちと交流しながら、柳原の言動・文章等にはそれらを生み出した朝鮮の文化に対する言及や関心が見当らず、異文化への眼差しの欠如が窺える。もし、朝鮮を内地とは違った文化を持つ国として見る事ができたならば、内鮮融和政策や植民地政策を相対化し、疑義を持つ一助となったのではないかと考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、これまで収集した資料を精読することにより、①朝鮮人女子教員内地学事視察の全体像を把握し、朝鮮総督府主催の内地学事視察と比較することができた。②その結果、柳原が企図した学事視察の特徴、天皇家・朝鮮王室に対して尊崇の念を抱くようになった背後の理由、支援活動に対する周囲の評価等を把握することができた。 他方、関屋貞三郎(元朝鮮総督府学務部長、朝鮮人女子を支援した関屋依子の夫)宛て柳原文書(内地学事視察時の鹵簿奉拝への協力依頼文)を入手した他、第2回学事視察時には女子教員とともに関屋邸を訪問したことが判明するなど、両者が直接関わりを持っていたことが分かった。
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今後の研究の推進方策 |
1.柳原吉兵衛と関屋貞三郎の関係についての調査 内鮮協和会において、柳原は大阪府協和会理事を務め、関屋は中央協和会理事長の任にあった。樋口雄一編・解説『協和会関係資料集Ⅰ~Ⅴ』(緑陰書房、1995年)等の資料を中心に、両者の関係を協和会の側面から調査する。 2.最終年なので、平成26年度~27年度に実施してきた調査・研究を再検討し、補足調査を行いながら論文の作成及び『朝鮮の高等女学校に関する総合的研究』(仮題)の執筆に努める。
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