本研究は、独自に行ってきた2つのフィールドにおける研究の発展を期して計画された。 このうち、一方のフィールドで研究を継続した森博俊(研究分担者)は、特別支援学校高等部卒業生を対象として「障害をもちつつ生きてきた」ライフヒストリーの聴きとり調査を実施した。聴きとりの結果、自らの「障害」について感じ考えてきたこと、小学校以来の生活・学習における困難、仕事や家族関係への思い、人間関係の経験とそれに伴う感情についてなど、深く考えられた「語り」を得ることができた。さらに、語られたことに基づきその「一人称的な世界」の再構成を試みた。 もう一方のフィールドで研究を行ってきた土岐邦彦(研究代表者)は、思春期・青年期を生きる発達障害児が参加する「演劇」「吹奏楽」「登山」という文化・スポーツ活動の場での参与観察、及び子どもと保護者に聴きとり調査を実施した。ここでは、友達関係や親子関係に男女差のあることを見出すとともに、日常の場所(家庭・学校あるいは職場)とは異なる「第三の場所」での活動のもつ自立にとっての意味、及びそれぞれの活動の質が彼らの発達にどのような影響を及ぼすかという問題について分析し、これらの活動への参加に「新たな自分」の体験と創造を保障する可能性があることを確認した。 さらに、研究代表者および分担者のフィールドでの活動と調査を、研究協力者も参加した全体研究会で報告、論議することを通して、各々の方法の精緻化とより洗練されたケース記述を行い、多様な事例の蓄積と検討を通して、発達障害等による困難を抱えた当事者の「自己の育ち」に視点をあてた事例研究を蓄積することができた。 なお、全体研究会では、方法意識にかかわる議論とともに、近接領域の研究者(小児精神医学・発達心理学・障害者教育)から本課題に関する有益な知見と示唆を得ることができた。
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