課題:ライフヒストリーアプローチによる教師の「熟練性」の研究-「二重の応答性」の発達-について以下のように報告する。 第1に「二重の応答性」が教師の経験によってどのように発現の仕方が異なるのか、この点については、初任期、中堅期、そして熟練期において教師の「二重の応答性」の発現の仕方が異なることが明らかにされた。初任期教師の場合、一時間の教育内容(目標)の修得に意識の多くが割かれ、教えたことに対する学習者のレスについては、対応できるものと対応できないものに分けることについても困難である。中堅期になると、自分の授業スタイルによって「二重の応答性」についての発現の仕方も変わるが、学習者のレスについてはより多くの場合、対応できるようになる。熟練期になると、教育内容は押さえながらも、学習者のレスについてその価値を判断できるようになり、価値のあるレスについては、個人的なレスを全体に返すことができるようになる。(森脇健夫他、教師の「熟練性」の研究ー2人の中堅中国人日本語教師の授業の比較分析を通してー、三重大学教育学部研究紀要第68巻2017) 第2にその「二重の応答性」がいったい何によって可能になるのかについての探究である。その一つのモデル仮説を提示することができた。それは目標構造の多層化という発達仮説である。初任期教師の場合、目標構造は指導案に書かれた1時間の授業目標(見える目標)にとどまっているが、次第に単元目標、また一年間の目標、教科の目標と「見えない」目標へと多層化する。熟練教師の場合、教科の目標を超えて人間形成の目標へと広がり深まる。こうした目標構造の多層化が、授業の臨床場面において瞬間的な「二重の応答性」を幅広いものにし、結果として価値ある学習が可能になるような応答を可能にするのである。
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