研究課題
本研究の目的は、〈生の実践知〉を次世代に継承する諸技法について、人間の成長と成熟に及ぼす作用および教育実践上の意味と有効性を具体的に解明することにある。この解明にあたっては、東洋と西洋との比較思想研究を通して東洋の伝統の特徴をより明確に描出するとともに、日本と韓国におけるフィールド調査研究を通して比較思想研究の成果をさらに臨床的に検証することを試みた。最終年度である平成28年度は、国内外の学会における発表4本および論文執筆4本を通して本研究の成果を世に問うた。これらを含め、研究期間全体を通じて明らかになったのは、大きく次の二点である。①〈生の実践知〉を継承するに際して、東洋においては、西洋と比較すると、ことば・文字のみならず多様なメディアがよりしばしば駆使されている。これらのメディアは、生きる上で区別すべきとされるものごと(例えば生と死、生者と死者など)の弁別と同時に、それらの弁別が曖昧になる境界の存在、生の実相においてはそれらが一連の流れとして繋がっていること、そして、この境界や一連の流れに関する認識が人間の生にとって持ちうる意味を、人々に身をもって経験させながら示唆している。②翻って、ことば・文字による伝達・伝承を主流とする西洋においても、例示やアナロジーといった、同じく、身をもっての経験を伴う示唆という技法が見られる。以上のことから、合理的で実証科学的に説明可能な知に回収されない、モノを媒介としてしか示し得ないような、あるいは例や比喩、寓意やアナロジーでしか語れないような「知」が、人間の成長や生成変容にかかわる従来の思想や儀礼のなかに存在していることが明らかになった。今後は、教育や人間形成に関する諸思想を辿り直し、そうした「知」掘り起こすことが教育哲学、教育思想研究の重要な課題の一つであり、この課題は、平成29年度より開始される新たな基盤研究を通して探求される。
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教育哲学研究
巻: 115 ページ: 印刷中
教育システム研究
巻: 12 ページ: 41‐52
巻: 12 ページ: 35‐40
総合教育研究センター紀要
巻: 14 ページ: 39‐53