研究課題/領域番号 |
26381037
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研究機関 | 尚絅学院大学 |
研究代表者 |
太田 健児 尚絅学院大学, 総合人間科学部, 教授 (00331281)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | モラルライック / フェルディナン・ビュイッソン / 統一学校運動 / ジャン・ゼイ改革 / アルベール・ベイエ / バシュラール / カンギレム |
研究実績の概要 |
フランス第三共和制「後期」(1919年~1940年)のモラルライックに関しては、ライシテ開始の1881年から1923年まで約40年間の第三共和制「前期・中期」までは本研究によってその詳細が解明されている1)。1923年とはデュルケームの『道徳教育論』の刊行年である(実際は1902-1903にかけてのパリ大学での講義)。しかしその後、どのようなモラルライック論が輩出し、学校教育現場にどう制度化され、非聖職者の教員養成制度の詳細はこれまで未解明であった。まず、デュルケーム後のモラルライックの研究と制度化はフェルディナン・ビュイッソン(Ferdinand Buisson,1841-1932)に託されている。エピステモロジーに関しては、前出のモラルライックと不可分な系譜、しかも異色の系譜が発見された。それはA.ベイエ(Albert Bayet,1880-1961)の「エトロジー」研究である。デュルケミアンの系譜に属さず、しかし、言語・文学・法律・習俗などに現れる道徳の「表徴」をありのまま記述していく実証研究を行う独自の路線を採った。彼についての研究は国内外で、皆無ではないが貧弱である ライシテの制度化に関しては、1923年2月23日には初等教育の教育課程から「神に対する義務」が削除されたが、同年の6月20日に程なく義務教育において「神に対する義務」の項目が復活するといった混乱が生じている。またヴィシー政権中、初等教育への「神に対する義務」復活、聖職者による教育活動の復活、「教理問答」の復活などライシテの立場からは復古的な教育政策が採られていることが分かった。 1) 基盤研究(C) 平成23年度~25年度、課題名:「フランス第三共和制期の政教分離(ライシテ)とモラルサイエンス問題」研究代表者:太田健児.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、フランス第三共和制「後期」(1919年~1940年)における教育制度・モラルライック・エピステモロジーという三側面の解明を目指すものだが、今年度はモラルライックとエピステモロジーとの解明が主となった。モラルライックに関しては前出のとおり、 エピステモロジーに関しても前出のとおり、A.ベイエのエトロジーという改めて照射されるべき新系譜が浮上してきた。バシュラール、カンギレムらのエピステモロジーと関連するのか否か、M.アルヴァックスの社会学などにどう繋がっていったのかを解明をしていく。ライシテの制度化に関しても前出のとおり、F.ビュイッソンがデュルケームのモラルライックを継いだわけだが、彼の教育思想のさらなる分析が必要である。ただし、ビュイッソン以外の思想家、政治家あるいは政党、社会運動などのモラルライックの制度化への関与については次年度の課題となった。レオン・ブルジョワ(1851-1925)、セレスタン・ブーグレ(1870-1940)、急進党などとの絡みについて研究していく。 また上記のような“思想界”“政界”の動きと“教育界”との「連動具合」が未解明である。さらに第三共和制「後期」は「統一学校運動」と当時の文科相ジャン・ゼイ(Jean Zay,1904-1944)による着手、ドイツ軍占領によるヴィシー政権樹立(1940年)による頓挫という歴史を辿るが、ここまでの繋がりにまでは着手できていない。 以上の各点は次年度の課題である。
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今後の研究の推進方策 |
1)フランス第三共和制「後期」の教科書・教師用指導書、教育学分野の学術雑誌類、官報(政命、省令、通達)を収集・精査を開始する。また、ビュイッソンの著作の分析をはじめとして、各種道徳教育論、各教育学者・思想家・政治家・政治思想、社会運動などの諸言説を分析していく。その際、エピステモロジーとの関連言説に注意を払っていく。その上で、各教育制度・カリキュラムの制度改変を辿っていく。これによって“思想界”“政界”の動きと“教育界”との「連動具合」の解明が進むものと予想される。第三共和制「後期」の「統一学校運動」と当時の文科相J.ゼイ改革、ドイツ軍占領によるヴィシー政権による頓挫の歴史のディティールを明らかにしていく。
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