研究実績の概要 |
本研究の目的は、哲学教育とそこにおいて重要な役割を果たしている「ソクラテス的対話」の可能性を、特に(A)レオナルド・ネルゾン(1886-1927)が提唱した「ソクラテス的方法」(あるいは、ソクラティック・ダイアローグ:SD)を中心にし、さらに(B)ユネスコの哲学教育の動向、および(C)SDの実践を含めて研究することである。
(A)について:一昨年度および昨年度に引き続きネルゾンの「ソクラテス的方法」(あるいは、ソクラティック・ダイアローグ:SD)の研究を継続した。本年度はネルゾンを継承して「ソクラテス的対話」を発展させたグスタフ・ヘックマン(Gustav Heckmann,1889-1996)の構想を検討した。ヘックマンの業績は、ネルゾンにはなかった「教育対話」という性格をSDのなかに持ち込み、さらにSDで用いられる指導上の措置を明確化した点にある。研究では、ネルゾンとヘックマンの違いを明らかにするとともに、それが生じる理由をヘックマンの第2次大戦中の亡命経験に求めた。また、今日の議論の分析でしばしば用いられるトゥールミン・モデルはSDでも対話分析に使用される。しかしトゥールミン・モデルとSDとは、類似点もあるが基本的には異なる方向性を持つ議論分析であると思われる。そこで両者を比較・対照して、異同を明らかにするを研究を行った。 (B)に関しては、ジョン・デューイ『民主主義と教育』100周年記念国際シンポジウム(イギリス、ケンブリッジ大学:2016年9月27日-10月1日)に参加した。今日における「民主主義と教育」との関係、とりわけそのなかでの民主主義と対話の問題について新たは知見を得た。 (C)に関して:ドイツにおけるSDのワークショップ(ドイツ、ヴュルツブルク:2017年2月24日-27日)に参加し、SDの実践経験を積んだ。
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