研究課題/領域番号 |
26381053
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
宮本 健市郎 関西学院大学, 教育学部, 教授 (50229887)
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研究分担者 |
渡邊 隆信 神戸大学, 人間発達環境学研究科, 教授 (30294268)
山崎 洋子 武庫川女子大学, 文学部, 教授 (40311823)
山名 淳 京都大学, 教育学研究科(研究院), 准教授 (80240050)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 遊び場 / 新教育 / 進歩主義教育 / 田園都市 / 遊び場協会 / 国際情報交換 |
研究実績の概要 |
アメリカについては、ボストン市やニューヨーク市などで始まった遊び場運動に着目して、それが全国に広がっていった経緯をしらべた。いくつかの大都市で起こっていた遊び場運動の指導者は、1906年にアメリカ遊び場協会という組織を結成した。この組織は、当初は、校舎の敷地に運動場を設置することや、学校の教育課程に遊びや体育を導入することに積極的であったが、しだいに、学校教育から距離を置いて、若者や一般人むけのリクリエーションを普及させることを主たる課題にするようになった。すなわち、遊び場運動は社会教育へと展開していったのである。一方、学校教育に着目すると、子どもの遊びや体育が学校教育の中で重要な位置を占めるようになっていった。社会教育の一環としての遊び場運動と、学校教育とのつながりを見ていくことがこれからの課題となった。 イギリスについては、19世紀以後の都市計画の展開を追い、そのなかで学校がどのように構想されていたかを調べた。1909年、1919年、1932年とつぎつぎに制定された住宅都市計画法を見ていき、ハワードの田園都市論の構想とのつながりを調べた。 ドイツについては、19世紀後半から、ベルリンで子どもの公的遊び場設置の緩やかなブームを確認した。その後、シュレーバー運動が子どもの遊び場設置に影響を与えたことを解明しつつある。また、ハンブルグは芸術教育運動が盛んであったところであり、そこでの新教育運動と都市計画との関係を調べている。年度末に渡独して関連の資料を収集したところである。 アメリカ、イギリス、ドイツの相互関係をみていくことは今後の課題である。イギリスに始まった田園都市の思想が各国に与えた影響を確かめていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は、イギリス、ドイツ、アメリカの比較研究であるが、国別に進度に違いがある。アメリカについてはほぼ順調に進んでいる。都市計画史に関する先行研究を収集し、まず大きな流れを確認し、つぎに、1910年代と1920年代に現れた都市計画論を中心に分析した。だが、都市計画と学校建築とのつながりや、学校の遊び環境と都市計画との関連がつかめていない。アメリカ遊び場協会が発行していた機関誌 The Playgroundなどは収集できたので、これから丁寧に分析する予定である。そのなかで、2代目の会長であるJoseph Leeが書いたものを中心に分析を進めている。 イギリスについては、平成26年度に実施したロンドン大学や大英図書館での資料探索によって、子どもの遊び場に関する団体を確認し、その機関誌も発見した。現在は分析を始めたところであるが、これらの団体や雑誌のなかで、遊び場の「公共性」がどのように論じられていたかを解明するという課題に取りかかったところである。大都市ロンドンと、その周囲にある田園都市とで、子どもの遊び場の事情は異なっており、「公共性」の概念にも違いがあるはずである。その違いもこれから解明すべき課題である。 ドイツについては、19-20世紀転換期の大都市の教育機能について、理論的な検討を進めた。大都市は無秩序な空間として危険視されることがあったが、同時に、教育者の中には、都市計画によって人工的な秩序を造ることで、意図的な人間形成が可能になることを強調するものもいたと思われるが、十分な論証ができていない。今後、都市計画の実態を分析する必要がある。いまのところ、ハンブルクの都市公園と建築家シューマッハについての資料を収集したにとどまっている。 19世紀末から20世紀初頭の都市計画は、ドイツ、イギリス、アメリカ、各国の相互の影響があったはずだが、まだ具体的にはつかめていない。
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今後の研究の推進方策 |
アメリカの都市計画は1920年代に大きな展開があった。大都市の周囲に郊外が発達し、大きな公園と緑のある町が出現したのである。このような住環境の変化と公立学校の遊び環境の変化との関係を具体的につかむことが平成27年度の課題である。アメリカ遊び場協会は全国リクリエーション協会に名称を変えるとともに、一般市民向け公園としての遊び場を普及させることに主眼を置き始めた。そのことは、実は学校の遊び場が子どもに対する教育機能を強化したことと関連していたと思われる。この点に着目して、学校の遊び場の変貌過程もみていく予定である。 イギリスについては、ハワードの田園都市構想の意義と限界を確認する。田園都市は、大都市の諸問題の後始末という側面があり、孤立的・閉鎖的であることを免れない。そのような場所での遊び環境と、大都市ロンドンの初等学校の中にあった遊び環境とでは、大きな違いがあると思われる。本年度は、The Journal of the Playing Fields Association などを詳細に分析し、その思想と実態の違いを明確にしたい。また、ロンドンにガラクタ遊び場を作った造園家アレン・オブ・ハートウッド卿夫人から始まった「冒険遊び場」運動の展開をみることで、学校の外にあった遊び場の可能性も探ってみる。 ドイツについては、ハンブルクの都市公園にあった遊び場と、学校の遊び場とを具体的に比較することで、学校の遊び場の教育的意図や機能を明確にしていく。 どの国においても、大都市では一般向けの公園が造られていた。そのような公園と、学校の中に設置された遊び場(運動場)とは、規模もねらいも利用者も全く異なっていた。そこに、地域と学校との乖離を認めることができる、と同時にこの二つを関連づけることで地域づくりにつなげようとする運動も起こったと考えられる。その思想と実態を解明するのも大きな課題である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度末に購入手配をした図書の納品が遅れたため、未使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
納品された図書の購入に充てる。
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