本研究の最終年度に当たる本年度は、研究のまとめてして、スイスにおける幼児教育義務化の制度と論理を次のようにまとめた。 まず、第1に義務化の制度について整理した。スイスの幼児教育の義務化は、就学年齢の4歳への引き下げによるものであり、逆に言えば規定されていることはその点のみである。また、就学率やHarmoSの承認の州の数の動向について、CDIPの2015年報告書をもとにまとめた。第2に義務化の経緯については、各州間の調和の必要性から憲法改正を経てHarmoS協定に至る経緯と、基礎期(4~8歳の教育)への着目から義務化に至る経緯の2つの筋があることを示した。第3に義務化の政策意図については、①幼児教育の重要性への着目、②家族の多様化や移民の増加などの社会背景とともに、③スイスの特徴でもある家族政策や保育政策の貧困、さらに④教育制度上の特徴である幼児学校と小学校との接続の困難(選抜的性格による幼小の隔たり、特にドイツ語圏)が背景にあることを明らかにした。第4に義務化の論拠については、CDIPの各種報告書を手がかりに、1997年報告書では基礎期の議論が中心であり義務化は課題とされており、2001年報告書においても就学義務より基礎期による早くからの選抜の回避が主眼とされていたこと、それが2003年になるとPISAの影響により義務化の議論が幼児学校の普遍化、機会均等の原則を論拠として重視され、最終的に2006年報告書により機会均等の重視に基づく義務化の議論として決着することを明らかにした。 なお、本年度の具体的業績はフランスに関するものであるが、フランスはスイスとは対照的に幼小の差別化を図る政策動向にあり、その比較対象に着目した研究の成果である。また、最終年度の研究成果については関連学会の紀要に投稿の予定である。
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