最終年度となる平成30年度は、以下の2点を中心に検討を行った。第一は、わが国のインクルーシブ教育がもつ特質についてより包括的に把握し、インクルーシブ教育の成立に必要な諸条件を整理することである。本年度は狭義の学校教育にとどまらず、地域コミュニティとインクルーシブ教育との関係にも分析の範囲を拡大した。こうした課題に着眼した最大の理由は、そもそもインクルーシブ教育とは何かという本質的問いと関連がある。本来のインクルーシブ教育とは、学校を媒介として地域コミュニティに変革と再生をもたらそうとする草の根の社会改革運動である。しかし、従来の日本では、インクルーシブ教育は障害のある子どもをはじめ、個別的なニーズを有する子どもたちに対する支援づくりと、彼らを包含する学校づくりを示す用語としてのみ解釈されてきた。 平成29年からの継続的な研究成果により、地域コミュニティとインクルーシブ教育との関連については、豊かな制度的・財政的基盤をもつ大都市圏よりもむしろ、インフォーマルで自発的な住民相互の共助が日常的に成立している小規模都市において、地域コミュニティがインクルーシブ教育を支え、インクルーシブ教育の進展が地域コミュニティの再生や活性化を促すという好循環がみられることを明らかにした。さらに、こうした好循環は、個々の住民が「インクルーシブ教育の本質」に関する正確な知識をもつことにより、いっそう活性化することも示唆された。 第二の課題は、近い将来、日本型インクルーシブ教育を新たな国際モデルとして諸外国に提案する準備作業として、障害者の社会生活にかかわる日本の理念・システムが他国に受容され、普及、変容していく過程を明らかにすることであった。日本の理念・システムは、とくにアジアをはじめとする非欧米諸国にとって親和性の高いものであり、新たな国際モデルとして高い潜在的価値をもつことが改めて示唆された。
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