最終年度として、研究成果のとりまとめを行った。博物館や劇場等の文化施設と地域の関係についての研究成果を発表したほか、最大の成果として、以下の書籍を刊行した(北田耕也監修・地域文化研究会編『地域に根ざす民衆文化の創造 「常民大学」の総合的研究』藤原書店、2016年)。常民大学は、民俗思想史が専門の後藤総一郎により1970年代後半に信州で始まり、市民が自主的に学び民衆文化を創造する場となってきた。明治以降の自主的な学習運動を源流、前史として位置づけながら、遠山、飯田、遠州、鎌倉、遠野、立川など各地で行なわれた「常民大学」の実践を記録し、社会教育史上の意義を位置づけたものである。研究者、元自治体職員、市民学習者など21名の執筆者による、600頁近い重厚な成果となった。 本研究を通して、以下の成果と課題を得た。(1)地域の課題を人々の学習活動により解決に向けていくという意味で、教育学と民俗学には接点がある。後藤と常民大学の実践、あるいはその思想の源流でもある柳田国男はそうした思いに突き動かされていた。(2)公的に整備された学校以外でも、自発的結社の形での学習組織の歴史があるし、学校においても郷土学習の歴史がある。これまでの社会教育研究と実践は、地域の歴史や伝統文化を封建遺制としてネガティブに捉えてきた面があるが、そのあり方を問い直し、学校内外の教育関係者が地域とその歴史にどう向き合ってきたかを探ることは今後の課題でもある。(3)常民大学以外にも、同時代には多様な学習組織の実践が広がっていた。こうした実践の歴史を辿ることは、現在進んでいる戦後史研究の重要な切り口にもなりうる。(4)常民大学、自由大学をはじめとする多様な学習結社に注目することで、大学とは何か、教養とは何か、といった学習組織や学習内容、さらには教育理念の根幹部分を問い直す視座を得ることができる。
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