研究課題/領域番号 |
26381075
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
山下 晃一 神戸大学, 人間発達環境学研究科, 准教授 (80324987)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 教育行政 / アメリカ合衆国 / 教育委員会制度 / 教育改革 / 教育政治 |
研究実績の概要 |
今年度の研究では、第一に近年の教育委員会制度をめぐる言説実践と改革実践を対象として、とりわけ本研究の中心的課題である「急進性」の生成要因に関する検討を行った。米国のみならず、わが国の状況も視野に入れると、教育委員の選出方式の違いにかかわらず特定の力学構造を生む政治アリーナの形成、とりわけ都市部での経済成長と学校教育との再結合、これらとの関連の下での首長部局と教育行政の関係再編が注目すべき要因として挙げられる。特に世代間関係から、未来世代への責任という観点から教育行政の理念の再検討が必要である。 第二に、教育行政における急進的な改革動向からの影響例として、教員評価を軸とする教員制度改革に焦点を当てて検討を行った。教育の置かれた社会的位置を反映して、教員の地位や身分が不安化される傾向の下で、教員評価制度の性質・水準、とりわけ待遇への反映方法によって教員間の序列化・排除的処遇につながる懸念が確認された。その際、当該教員の社会的経済的民族的背景の偏りが生じるおそれもあり、学ぶ側の平等・公正を担保しうる教える側の平等・公正の確保の観点から検証・是正が求められる。他方、こうした動向に対して、標準化・共通規格化を通じた自律的専門職化の追求という方略も考えられるが、地域ごとの教育環境や児童生徒の初期条件の相違・格差をどのように考えるか、教員の自主的な学びの組織化が可能か等の課題が残る。 総じて、規格化=評価の他に、自律的専門職化と社会との関係を調整する有効な手法、しかも新たな教員文化創成への期待と、社会の信頼・納得・満足とを両立するような手法がありうるのか。今後、日米の事実動向に即して検討を進めることが求められる。その際、例えば学校教育の持つ次世代市民育成という位相の責務は本来、社会全体が共有すべき等、教職の歴史的根源に立ち戻った制度原理の再構築等が重要となることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度に予定していた渡航調査について、カリフォルニア州オークランドについては、別の予算にて訪問調査する機会があり、併せて資料収集を行うことができたため、予算の有効活用につながった。もう一つの訪問予定地であり、とりわけ本研究において重要な位置を占める都市・地域の一つであるシカゴ市を訪問することができた。シカゴ市では、シカゴ大学のみならず、シカゴ教員組合、市内チャータースクールへの訪問調査を実現できた。さらに、そこで紹介された知己を頼りに、米国他都市において急進的な改革に取り組んできた元教育長との面会も実現して、次年度以降の調査研究に関する大きな手がかりを得た。これらで入手した資料・面談調査の結果を解析して、また、米国・日本での研究動向を収集・検討・吟味した結果として、申請書に記載した「研究の目的」の達成度について、1)急進性の根拠、3)急進性の実態的根拠の2点について進捗が見られたため、初年度の達成度としては十分と考えられ、上記評価とする。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、ルイジアナ州ニューオリンズにも渡航予定であったが、条件が整わなかったことと、教育改革において新たな動向が見られたシカゴへの渡航を優先したため、次年度は是非とも訪問調査を行いたい。また、ワシントンDCについては、本研究の開始前にまとめた同都市を対象とする拙稿が存外に好評であったため、その検証を兼ねて予定通り訪問調査を行いたい。 以上に加えて、次年度に英国の教育行政実務家を交えた国際シンポジウムへの登壇を依頼されたため、この好機を活かすべく、米国のみならず英国の状況をも視野に入れた国際比較研究の実現に向けて、登壇者との連絡調整を図りたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入予定であった書籍の発行が遅れて次年度にずれ込んだため残額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
購入予定であった書籍が5月に発行予定であるため、残額を利用して次年度に購入予定である。
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