本年度は英米の動向を踏まえ、わが国における理論的・実践的含意を得ることを目的に、以下の観点から研究の総括的考察を試みた。第一に、前年度における学会シンポジウムでの報告に基づいて原稿を作成した。第二に、わが国の地方教育政策過程の事例研究を通じて、公立高校入学者選抜をめぐる急進的改革のなかで教育専門家の立場が劣位化する様相の解明をめざした。第三に中央教育政策過程の事例検討を通じて、初等中等教育にも影響を及ぼす大学政策の展開状況について、急進的・強権的な展開が可能となる構造的要因・時代背景の解明をめざした。第一に英米の事例検討を通じて、とりわけ英国で急進的とも評価される事例では、単に強権発動・上意下達で教育改善を現場に強要したのではなく「『教員にとっての誘因は給与や勤務待遇より、やりがいと志と相互支援の雰囲気だ。教員とはそのようなことを大切にする職業人だ』と私たちは考える」との肯定的主張を随伴し、研修施設の新設等、具体的施策も展開した点に注目した。第二に、当該事例においては第一の事例とは異なり、教育評価方法をめぐる理論的決着の困難にも乗じる形で、決定過程における同じ専門家ゆえの論題化回避・欠点追及等の特色も発揮しながら、新規政策の採否いずれにおいても教員を批判する論陣を張ることによって、従来の教育専門性に対する信頼性毀損が達成された。第三に、現在の初等教育から高等教育にいたる改革動向が、産業・経済の革新を担う人材開発に強く主導される時代を再び迎え、先行きの不透明感と不安によって人々が現行改革動向を黙示的に支持する構造がある。この人材開発に伴う創発型基盤としての大学、そこに離合集散を繰り返す人材、あるいは下支えする人材を育成する初等中等教育、それらを可能にする規制撤廃、効果的・効率的な資源の傾斜配分、厳格な管理サイクル等、教育行政の文化自体の刷新と普及の徹底も浮かんでいる。
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