研究課題/領域番号 |
26381080
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
中坪 史典 広島大学, 教育学研究科(研究院), 准教授 (10259715)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 保育カンファレンス / 質的アプローチ / 保育者 / 省察 / 子ども理解 / KJ法 / TEM |
研究実績の概要 |
当該年度における研究実績の概要は、次の通りである。 (1)実践コミュニティとしての保育カンファレンスを具現化するうえでは、次の理由から、質的アプローチの応用が有益であることを明らかにした。(a) 質的アプローチが有する特徴を保育カンファレンスに応用することで保育者は,保育中の出来事や子どもの経験に関する自らの解釈が独断的・近視眼的にならないように,同僚との対話を通して,自らの無自覚な側面を自覚化できる。(b) 同様に保育者は,保育中の出来事や子どもの経験に関する観察記録を用い,観察対象の個別・具体性や事象が生起した場の社会・文化的文脈に即して捉えることで,子どもの経験に内在(潜在)する意味を見出すことができる。 (2)以上の結果を踏まえ、実践コミュニティとしての保育カンファレンスを具現化するために、質的アプローチ、特にKJ法とTEMの応用を試みた。 (3)その結果、KJ法を用いることで、(a) 保育の中で保育者が接する子どもの姿や,それに基づいて行っている援助の方法など,普段の何気ない保育行為が裏付けられ,そのことが自信に繋がったり,他方で,新たな発見によって自明性が問い直されたりするなど,自らの保育行為の意味を考える有益な機会となること、(b) 同僚との対話が促され,議論の流れを気にすることなく誰もが気軽に意見を示したり、参加者全員に発言の機会が保証されたりなど、連帯感が促されること、(c) 経験年数や職位の異なる保育者同士が集い,議論することから,チームワークの構築に寄与することが明らかとなった。 (4)また、TEMを用いることで、(a) 子どもの活動は,周囲の出来事に影響を受けながら展開していることを知ることができること、(b) 実際に起こった出来事とは異なる状況を推理することで,子どもの経験のイメージを拡大できること、(c) KJ法と同様に,チームワークの構築に寄与することが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究目的の達成度について、自己点検による評価の理由は、次の通りである。 研究実績の概要に記載の通り、当該年度は、実践コミュニティとしての保育カンファレンスを具現化するために質的アプローチを応用し、その可能性や課題を検討することであった。質的アプローチの中でも、KJ法とTEMに着目し、それらを用いた保育カンファレンスをデザインするとともに、実際に保育カンファレンスを行い、保育者を対象としたインタビューや、カンファレンスの最中の発話記録などのデータを収集し、分析するまでに到った。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、日本での新たな協力園を対象に、同様の保育カンファレンスを実施する、米国やアジア諸国の協力園において、申請者がこれまで日本国内で行ってきた実践コミュニティとしての保育カンファレンスを紹介し、それに対する意見や海外の状況を把握するなどの研究を行う予定である。また、今年度は最終年度であることから、これまでの研究成果を総括し、学術的知見としてまとめ、報告書の作成もしくは学術出版物の刊行についても検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度に開発・デザインした、質的アプローチを援用した保育カンファレンスについて、当該年度は、その試行・運用を具体的に行った。その際、予定していた物品の一部を次年度での購入に変更した。また、当該年度にインタビューの分析結果が得られたことから、次年度は最終報告を兼ねた学会発表等の機会が当該年度より増えることが予想される。
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次年度使用額の使用計画 |
当該年度に予定し、購入を見合わせていた物品の購入に充当するとともに、最終報告を兼ねた研究成果を国内外で発表するための旅費(海外)の使用を計画している。また、米国保育施設において、質的アプローチを援用した保育カンファレンスの試行・運用を計画している。
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