当該年度における研究実績の概要は、次の通りである。 第一に、実践コミュニティとしての保育カンファレンスをデザインするために、質的アプローチ(KJ法)を援用するとともに、参加した保育者へのインタビュー調査を行ったところ、次の点が明らかになった。(1)KJ法では、保育者は事前に自分の考えを付箋記入するため、他者の考えに左右されず多様な意見の創出が促された。(2)KJ法では、付箋を用いた共同作業に基づいて議論が展開されるため、各保育者の発言機会が増加し語り合いが促進された。(3)KJ法を用いることで、【同調プレッシャー】【完成度プレッシャー】【評価プレッシャー】など、従来保育者が感じていたプレッシャーが軽減された。その一方で、ベテラン保育者が感じる【経験年数プレッシャー】については、従来同様軽減されにくいことが分かった。 第二に、同様に質的アプローチ(TEM)を援用するとともに、参加した保育者へのインタビュー調査を行ったところ、次の点が明らかになった。(1)TEMでは、子どもの経験のプロセスが詳細に描き出されると同時に、保育者が可能性の領域に意識的に目を向けることで、事実として生じた事柄に隠された子どもの経験や保育の展望に対する多角的な理解が可能になることが明らかになった。(2)TEMでは、印象的事例よりも日常の一コマに光が当てられるため、保育の中の「微細な行動」への着目や「もしも」を想像した新たな見方が促された。 第三に、米国における保育カンファレンスの状況を調査したところ、(1)個別・具体的な事例を共有して語り合う、(2)リラックスした雰囲気のもとでの語り合う、(3)管理職の有無や経験年数にかかわらず全員が対等に発言するなどの特徴が挙げられた。これらの点は、日本において実践コミュニティとしての保育カンファレンスをデザインする上で示唆的であることから継続的調査が必要である。
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