研究課題/領域番号 |
26381103
|
研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
小松 茂久 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (50205506)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 教育政策 / 教育統治 / 教育政治 |
研究実績の概要 |
本研究は、教育の専門的自律性原理や政治的中立性原理に乖離する教育統治改革が日米両国で同時進行している状況に鑑みて、両国の政治主導による教育改革と教育政策の特質に着目して、その意義と課題について明らかにし、わが国の地方教育統治改革への示唆を得ることを目的としている。 平成26年度の米国の研究実績については以下の通りである。政治主導の教育改革としての典型例である市長による教育行政の統制の効果について検討を加えた。その際に都市教育改革をめぐって市長のみならず、州の政治アクターや都市内の経済界、市民団体等のアクターの政治的決定過程における強い影響を見い出すことができた。そのために、教育専門職者を排除したアリーナで政策決定が行なわれ、特徴としてニューパブリックマネージメントの手法が多用されたり、教育ならびに学校教育活動の民営化が推進されたりしている。これらの事実経過や実態については文献研究を中心として研究を進めてきた。 わが国の政治主導による教育改革と教育政策についての研究では、主として中核市、特例市に焦点を当てて、各市の議会議事録の検討から着手した。その際に、議事録に記載されて当該都市で議論されている教育政策の中でも、学校選択制度の導入と廃止について、政治アクター、特に市長と議会議員がいかなる役割を果たしたのかついての文献調査を進めた。その後に、学校選択制度を廃止した事例市を抽出して、当該政策の決定にいたる過程について聞き取り調査を行い、政策形成過程の分析を進めた。首長、議会、教育長(教育委員会)の間での政策をめぐるダイナミズムの分析事例を可能な限り増やすことで、わが国の政治主導による教育改革と教育政策の特質を抽出できるものと確信している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
米国の事例については、これまでに研究代表者による研究蓄積を踏まえて、事例研究対象都市を拡大することで、その特質を多面的に明らかにすることができたと考える。特に、政治主導による教育改革で専門職者が排除されている事例を分析することは、これまでの教育委員会制度が担ってきた役割の抜本的再検討を必要とする端緒を示すことができた。わが国の研究については、米国とは対照的に、教育委員の首長による任命制と教育財政権の掌握によって、政治主導が制度的に可能であったにもかかわらず、専門性への一定の配慮をこれまで行なってきたことを、議会資料によって提示することができた。また、同じく議会議事録の分析から、議員も教育政策の形成と実施に一定の影響力を行使していることを見いだせた。
|
今後の研究の推進方策 |
特に、わが国の政治主導改革について、今後いっそう明らかにしなければならない側面が明確に浮かび上がった。 1点目は、わが国の場合、首長が制度的に政治主導が可能であったにもかかわらず、介入にきわめて抑制的であったことの要因について、首長のパーソナリティーのみならず制度的要因について研究することである。 2点目は、わが国の地方公共団体が二元代表制を採用しており、首長と議会の抑制と均衡の原理が作用しているものの、首長の権限がきわめて強い。このことを背景として、議会での首長の意見表明や答弁を検討することで、教育にプライオリティを置いている首長を擁する自治体の教育政策の特質を検討することが今後の重要な課題となる。 3点目は、議員の有する政策決定への影響力の度合いの分析が課題となる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
平成26年12月に衆議院議員総選挙が実施された。すでに11月頃より「解散風」が吹き始めていたが、当初からわれわれは同年12月に市議会議員への聞き取りを予定していた。ところが、10月末から11月にかけて面談対象であった首長や市議会議員に面談依頼を試みたものの、予定者の多くが選挙準備のために多忙を極めており、われわれの訪問調査に応じてもらうことができなかった。そのために、研究出張が実現できず、研究費の中からの支出予定であった旅費、交通費を支出しておらず、次年度の使用額が生じた。
|
次年度使用額の使用計画 |
平成27年度では、昨年度に予定してした訪問調査の地点と回数を増やして支出する予定である。調査対象都市として、中核市を中心に文献を収集し読み込みを行なってきた。この作業量も膨大であるが、この作業を継続するとともに、文献を読み込むことで政策的に特徴的な都市が今後とも見出されることが予想できる。そのために結果的に訪問調査都市が増加することとなり、その際の旅費・交通費として支出する予定である。
|