本年度は、特定の教育実践開発が教師によるどのような受容や葛藤を経て継承・普及・変容していくかの契機を最終的に明らかにするため、A)東海地方の「個別化・個性化教育」の開発校・継承校関係者に対する聞き取り調査と、各学校の実践開発場面および実践場面の観察調査、B)福井県の「縦割りホームルーム制」実践関係者への聞き取り調査と、その継承校での実践場面の観察調査とをそれぞれ継続実施し、知見のとりまとめを行った。 A)では、開発校であるO小学校を起点に、1)1980年代におけるO小からU小への継承=普及局面、2)2000年代におけるI小への継承=変容局面、3)それ以後のI小から4つの小中学校への継承/変容局面、という複数の次元/局面に分節して検討した。B)は、4)W高校から2000年代のS中学校設立時への継承=普及局面と、その後、5)人事異動にともなう設立=導入時教職員の入れ替え後の同中学校での変容局面とに分節し、A)から得られる知見の個別性/普遍性を抽出可能にするための比較対照群として検討を加えた。 教育実践の開発・実施のプロセスは、伝統的な労働社会学が扱ってきた労働過程と異なり、そのつどの「状況に埋め込まれた」実践の絶えざる組織化として具現化する。したがって、その継承においては、実践を正当化する教育理念と、その理念に関連づけられた技法との、それぞれの次元における「概念の論理文法」の展開のあり方が普及/変容の帰趨を左右する。第一に、文字や語りに明示化された教育理念に対する教師の納得性の有無が受容・継承可能性を規定する。第二に、受容・継承された理念と実践プログラムが、教師の直面する状況のもとで改めて読み込まれ、その文脈のもとに埋め込まれた実践への(再)組織化を通じた変容が生起する。具体的な状況を超えた原理が、具体的な状況に刺し戻されて組織化される機制に変容の契機があることを明らかにした。
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