研究課題/領域番号 |
26381126
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研究機関 | 京都教育大学 |
研究代表者 |
村上 登司文 京都教育大学, 教育学部, 教授 (50166253)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 平和教育 / 現代化 / カリキュラム開発 / 比較社会学 / 平和学習 / 戦争体験継承 / 平和意識 |
研究実績の概要 |
平成27年度は下記の研究を行った。 平和教育の授業づくりのためのホームページを作成する。小中学校の若手教員において平和教育の実践に対する関心が薄れており、また実践方法がわからない若手教員が増えている。戦争を知らない教員が平和教育をどう行えばよいかを示すため、「平和教育の授業づくり」のホームページを作成した。HPの内容は、1)平和教育の必要理由、2)発達段階に応じた平和教育、3)授業づくりの方法、4)平和教育の実践例、5)実践についてのQ&A、6)平和ミュージアムの活用、などについてである。 平和教育の研究と実践とが往還する必要があり、平和教育の研究者と実践家が集まる平和教育授業研究会を開催した。研究会のテーマは「これからの平和教育-戦後71年目」であった。内容は、1)京都教育大学の学生への課題(戦争体験の継承の実践)の分析結果を用いて、若い世代による戦争体験の継承方法、戦争学習の内容、祖父母からの学びについて交流した。2)平和のためのプレゼンテーションの実践効果をみるために、京都教育大学の院生・学生による表現活動を提示し、教育効果について交流した。 平和教育に関してコスタリカで開かれたシンポジウムに参加し、Development of Peace Education in Japanese Schoolsを報告して、日本の平和教育の歴史を紹介した。ナショナル大学のミュノス氏から、コスタリカの平和教育の史的特徴について研究報告を受けた。また、コスタリカの現地の幼稚園と小学校を訪問し、平和教育の実践家であるバルガス幼稚園長に対して、平和教育についての考え方と貧困地区での彼女の平和教育実践についてインタビュー調査を行った。さらにコスタリカの国連平和大学を訪問し、国連がすすめる平和教育についても情報を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①沖縄における平和教育を紹介した。沖縄本島で行った実地調査をまとめて、次の3点について平和教育の現状を論文により報告した。1)沖縄県の「平和教育」研究指定の小学校である「うるま市立勝連小学校」における平和学習。2)「沖縄市平和事業推進アクションプラン」の10年計画を2013年に策定した沖縄市における平和事業の取り組み。3)戦争非体験者による次世代への間接的継承として、平和ボランティアガイドの需要が高まっており、平和ガイドに対するインタビューのまとめ、などである。 ②中学生に対する平和意識調査を実施した。2016年1月と2月に中学生に対して平和意識調査を実施した(以下「2016年調査」)。平和教育実践のための教育方法と課題を探る資料とするため、東京、京都、広島、那覇の4都市で、中学校18校の中学2年生に対して平和意識調査を実施し、1348名のサンプルを得た。2006年に実施した同様の調査を参照しながら、平成28年度は過去10年間における中学生の意識の変化を分析する。また、広島市の「平和教育プログラム」の影響について、2016年調査の結果の分析により、その教育効果を検証する。 ③ネットワークのハブとして平和教育のカリキュラム開発について情報交流を行う。平和教育に関心を持つ研究者や実践者が集まる平和教育授業研究会を開き、次世代が行う平和教育実践に向けて研究情報を交流した。 ④平和教育の実施状況を把握する。兵庫教育文化研究所が行った「兵庫県の平和教育の実態調査」の実施に協力した。その調査により、平和教育の年間カリキュラムの作成状況、平和教育を実施する教育領域、現在の平和題材と今後重要となる平和題材、若手教員の平和教育への関心度とそれを規定する校内の教員年齢構成や修学旅行への行き先との関連、などが明らかとなった。 こうした理由により、昨年度の達成度については上記の評価結果とした。
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今後の研究の推進方策 |
以下の推進方策を有する。 ①広島と沖縄における平和教育実践の比較分析を行う。広島市教育委員会が作成したテキスト教材の有用性と展開方法をみるために、平和教育の公開授業を参観し、広島市の「平和教育プログラム」の現状について把握する。広島市では、平和教育プログラムが進んでおり、「平和教育ノート」を小学校から中学校までの全児童生徒で利用している。2016年調査では、「平和教育ノート」についても選択肢に入れてたずねているので、その利用状況や戦争体験継承への教育効果を定量する。 ②平和教育実践の国際比較分析を行う。Journal of Peace Educationには、近年イスラエルの平和教育を紹介した論文が多く掲載されている。イスラエルのハイファ大学にある平和教育研究センター(The Center for Research on Peace Education)やエルサレム大学を訪問し、イスラエルの平和教育論や平和教育実践プログラムを実地調査し、平和教育への政治的・社会的影響や、教育効果について検討する。 ③平和教育のカリキュラム開発を進める。作成された平和教育の授業案を配列して平和教育カリキュラムにまとめ、題材と実践方法と併せてホームページに掲載し、若手教員による平和教育実践を支援する。 ④ネットワークのハブとして平和教育のカリキュラムについて情報を交流する。平和教育研究会を開催し、実践や研究について報告し、カリキュラム開発方法について研究を進める。平成28年度は研究の最終年度(3年目)として研究成果をまとめ、「平和教育のカリキュラム開発」(仮題)と「平和教育の授業づくり」を編集し発行する。
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次年度使用額が生じた理由 |
別途資金でコスタリカの平和教育の実地研究を行ったが、平成27年度に予定していた海外での実地調査がうまく進まなかった。そのため、海外出張の支出が縮小した。また、平和教育実践のためのホームページ作成は順調に進んでいる。だが、全体的な完成はまだで業者への全面的リニューアルの依頼まで至っていないので、業者へのHP作成依頼の支出がなかった。また、平成27年度は平和教育授業研究会を一度開催したのみで、平和教育研究者を招聘して研究会を開催するには至らなかった。上記理由により次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
昨年度分の残額と今年度分の予算を充てて、平成28年度において、海外での実地調査、HP作成などの研究を進め、研究会開催を進める予定である。国内の平和教育研究のネットワーク化により、カリキュラム開発のノウハウを結集して、平和教育のカリキュラム開発を支援する。平成28年度は、ホームページのさらなる活用を通じて情報交流を進展させる。ネットワーク活動を通じて、また授業研究会を開催して研究交流を増やし、平和教育実践への参加の輪を広げる。戦争体験を継承する平和教育実践を若い世代や教員に引きつぐため、平和教育の内容と方法の検討を進める。過去についての平和題材と現在・未来についての平和題材をどのように扱うかを示し、現代的課題に対応した平和教育カリキュラムについて提案する。
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